「表紙」2012年03月08日[No.1406]号
県内の女性救命救急士第1号として、11年のキャリアを持つ新垣洋子さん(40)。「女性初とは、知らなかったんです。県内に16人いる女性消防隊員はみんな後輩ですから、先頭を走っていかないと、という使命感はありますね」と、自身の立ち位置を語る。看護学校卒業後、県内2カ所の病院勤務を経て、消防の世界へ。現在は、電話の向こうで助けを待つ広域住民からの通報を、通信指令室で最初に受け、現場へとつなぐ。「事件ですか、事故ですか、傷病者はいますか、場所はどこですか」―日々、緊張の連続だ。
看護師から消防士へ
手元のランプが通報を告げる。声のトーンに気を配りながら、通報者に話し掛ける。
「通報している人は、パニックになっていることが多いので、まずは落ち着いてもらうことが大事なんです」
事故か、火災か、傷病者か。場所はどこか。交通事故などの場合、複数の人が携帯電話で通報してくることが多いので、同じ現場なら会話する人を絞って混乱を避けるという。
「口頭指導というんですが、隊員が到着するまでに、家族など周りにいる人がどこまで処置できるかも生死を左右することがあります。ですから、電話でつながっている間の話し掛け方も、日々練習します」
状況によって、救急車、消防車などの出動指令を掛ける。東部消防組合は、与那原町、南風原町、西原町と広域を担当するため、「南風原は比較的お年寄りが多く、出動要請も増えるのですが、家族や近所との関係が密です。逆に西原町は移住してきた若い方が多い分、核家族が多いようですね」と、地域の特徴をつかむことも心掛けている。
看護師から消防士へ。経歴を見ると異例に思えるが、新垣さんの中では自然につながっている。
「私の世代は、看護学校で救命救急士の資格が取れました。どちらも命と向き合い、人を助ける現場。自分に何ができるか、突き詰めてみようと思ったんです」
結果、女性救急救命士第一号になったことは、入隊して知った。
「以前は母体保護の観点から、担ぐ荷物の重量が決まっているなど女性消防士は分担が限られていました。今は男性と同じように勤務できるようになってきました。女性の職業として、もっと認知してもらえたらうれしいですね」
この10年余りで女性消防隊員は16人に。九州エリアでは女性の進出が進んでいる方だというが、やはり割合で言うと女性は少ないのが現状だ。
プライベートでは、消防学校で知り合った雄二さんと、2年の交際を経て結婚。2人の子どもにも恵まれた。
「24時間交代勤務なので、夫婦の休みがそろうことはめったにありません。家事も育児も半々です。子どもたちはさびしい思いをしているかな、と感じる時もありますが、私たち家族にとっては普通のこと。
”今日はだれがいるのー?“なんてあまり疑問に思っていないみたいです」と笑う。
救急救命士として現場にいた時、
”女性・母親ならではの視点が生きた“エピソードがある。自宅で破水したとの通報。駆けつけると、産道は開き、分娩直前だった。
「男性隊員の場合、産道を抑えて病院へ搬送することが多いのですが、その場で出産させたことがあります。現場では、一瞬一瞬の判断が求められる。無事産まれてくれて良かった」
さらに、ひきつけなど乳幼児の突発的な事態に遭遇した母親の気持ちにも寄り添う。
「わたしの不注意だ、もっと早く対応していれば、とお母さんは自分を責めるんです。でも、大丈夫ですよ、お母さんのせいじゃないですよ、となぐさめる役目もあります。私自身、母親になって視野が広がったし、余裕ができたと思います」。
多忙な中、県の消防協会で消防士の環境改善を話し合う女性部会にも参加している。女性消防士のパイオニアとして、現場でも職場でも、また管轄を超えて、これ、と決めたらやり遂げる。そんな一途な性格の新垣さんを、家族は「うん、うん」と送り出してくれる。心掛けているのは、「任されたことは、1件1件、平等に誠意をもって対応すること」だ。今後の目標を聞くと、「予防や日勤などの業務も経験して、現場の指揮系統に関わっていきたい」
未来に向かい、今日も指令室で通報を待つ。
島 知子/写真・島 知子