「表紙」2012年06月21日[No.1422]号
那覇市西町にある株式会社千代田ブライダルハウスのきらびやかな店内で、ひときわ輝く笑顔を見せている泉川(旧姓)綾乃さん(29)。
主に県外のお客さんに挙式のプランを紹介している。挙式についての相談から実現までをサポートし、親身になって対応する仕事だ。コミュニケーション能力を問われる仕事に、初めは苦悩したこともあった。しかし、泉川さんの明るく、前向きな性格は、周りに安心感を与え、今日もたくさんのお客さんに幸せを与えている。世の女性の夢である結婚を、忘れられないものにしたいと日々尽力している。
「子育てシフト」に感謝
県外のお客さんへの案内は、電話での対応が主体となる。挙式の会場選びからドレスまで、総合的にプランを提案していく。電話では見本や資料を見せながら話すことができないため、言葉だけでイメージを伝え、話を進めていかなければならない。
「初めは、本当に難しかったです。伝え方一つで捉え方は変わりますし、県外だと、言葉の使い方に微妙にズレがあったりして、苦労しましたね。言葉だけで相手にどれだけ想像を膨らませられるかというのは、今でも毎日勉強しています」と苦笑い。
何か誤解を与えた可能性を感じた時には、その場で説明し直したり、周りのスタッフの意見を求めることを心がけ、丁寧な対応に徹している。
泉川さんは20歳の時に株式会社千代田ブライダルハウスに入社し、今年で9年目になる。高校を卒業後、ブライダル関係の専門学校に通う。その頃はまだ、将来就きたい仕事かどうか深く考えていなかった。気持ちが固まったのは、専門学校を卒業して、大阪で営業職に就いた時だという。
「別の職種に就いて、自分が本当にやりたいことは、ブライダルの仕事だと気づきました。大阪では、3カ月しか働いていませんが、いい経験をしたなと思います。遠回りしたように見えるけど、結果的に近道でした」と、自身の過去を振り返る。
泉川さん一家は夫、古波藏良さん(35)、長女、鈴音(りお)ちゃん(3)、長男、 人(りんと)くん(1)の4人家族だ。魚の卸売りをしている良さんは「休日は進んで子守りをしてくれる、心の優しい夫」と話す。
同社では、「子育てシフト」という、働く父母向けの短時間勤務制度を設けている。子どもの年齢に制限はなく、体質などを見て考慮するシステムだ。通常9時半~19時までだが、子育てシフトを適用している社員は16時半に退社する。一カ月間に働く時間は決まっており、それをシフトで調整するので、周りに負担をかけることなく子育てと両立できる。
「働くお母さんにとって、仕事と育児を両立するということは、周りの理解や環境が大きく影響します。私の場合は、本当に恵まれていると思います」 夫婦共に仕事が休めないときは、実家に預けることもある。孫に会うのが楽しみな泉川さんの両親はとても喜んでいるそうだ。
「子どもが二人いる中で仕事を続けることは、もっと大変だと思ってました。でも、家族っていいですよ。私の親が、今まで見たことのない顔で子どもと遊んでいるんですよ。そういうのを見ると、産んで良かったな~、幸せだなって思います」。満面の笑顔で話す泉川さんから、家族の仲の良さが伝わってくる。
入社当時のことを聞いた。唯一もらったマニュアルは、プランの料金表だった。それ以外の知識は、見て、聞いて覚える。泉川さんは、先輩の横で必死に学んだ。初めてお客さんを任されたときは、落ち込む日々が続いたという。お客さんの理想、気持ちを引き出すことができず、苦悩した。臨機応変に対応するために、自らの行動にはいつも細心の注意をはらっている。
「今の伝え方で良かったのか、もっといい対応の仕方はなかったのかと考える癖が付いていますね。普段からより良い接客を目指しています」と笑顔。向上心を保つ秘けつは、仲間の存在だった。
ブライダルの仕事は、お客さんの夢を叶えることでもある。1年以上前から予約をする人、ドレス選びに3時間以上かける人、会場を隅から隅まで見学する人もいる。一生の思い出を作るため、お客さんは真剣だ。すべての人を満足させる挙式を、これからも作り続ける。泉川さんの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
普天間光/写真・桜井哲也
ウエディングドレスのチェックをする泉川綾乃さん=那覇市西町の千代田ブライダルハウス
プロフィール
いずみかわ あやの 1982年、恩納村生まれ。名護高校卒業後、沖縄職業能力開発大学校のホテルビジネス科に進学。ホテル業務、ウエディングのノウハウを学び、サービス業への関心が高まっていった。良さんは「妻は、家のことをよく頑張っていると思います」と笑顔。すると、泉川さんは「本当はいつもダラダラしてーとか思ってるんでしょ~」と言い、二人で楽しそうに笑い合う。誰もがうらやむ家族の光景が、そこにはあった。
ブライダルアドバイザーの仕事は、その名の通り、ウエディングプランのアドバイスをする。お客さんに料金を説明し、その中で対応可能なプランを提案。県外の場合は、電話やメールで案内をする。お客さん一人一人に時間をかけ、思い出を共に作っていく気持ちが大切だ。