「表紙」2014年05月22日[No.1519]号
爽やかなそよ風に揺れる白いカモミールの花—。新里みどりさん(60)は、南城市大里古堅の「ハーブの里みどり農園」で約60種類のハーブの他、野菜や果樹などを育てている。家庭菜園からスタートした畑は、現在約1700坪。「ずっと専業主婦だったので、こんなに広い畑を持てるなんて夢にも思いませんでした。ましてや自分の名前がついた農園なんて…」と笑顔を見せる。きっかけは、「安心して食べられる安全な野菜を育てたい」という「主婦の目線」だった。
生活の中にハーブを
南城市大里古堅の集落を抜けると、緑豊かな盆地が広がる。手つかずの自然に囲まれているのが、「ハーブの里みどり農園」だ。同集落出身の新里さんは、琉球大学理工学部生物学科を卒業後、就職。しかし体調を崩し、結婚して家庭に入った。29歳で長男を出産。次男、長女にも恵まれ、子育てに奮闘した。
そんな中、友達からもらった「いい香りのする葉」。調べてみたら、レモングラスとローズゼラニウム。これがハーブとの出合いだった。
以来、ハーブに興味を持ち、40歳のころ生活協同組合の活動でハーブの勉強会を結成。講師にジャパンハーブソサエティー(JHS)沖縄支部の翁長周子(ちかこ)さんを招き、知識を深めた。新里さんもJHSの会員になり、インストラクターの資格を取得した。
ハーブのイベントで出合ったのが「ローゼル」。1㌔㌘を買って帰り、試行錯誤しながらジャムを作ったら、「すごくおいしくて、衝撃だったんです。甘酸っぱくて、ジャムの中で一番おいしい」。お茶にすると鮮やかな赤で、味は酸味がある。「みんなに食べてもらい、活用してほしいハーブです」と力を込める。
主婦目線の家庭菜園
20年前、実家の畑を引き継ぎ、家庭菜園を開始。「安心して食べられる安全な野菜を作りたい、という主婦の目線で始めました」。ハーブと大好きなローゼルも植えた。
10年前、畑周辺の土地も借り、約1700坪に拡大。現在、育てているハーブは50〜60種。ミント類をはじめ、ローズマリーやオレガノなどのキッチンハーブ、ウイキョウなどウチナーハーブもある。一度植えたハーブは花が咲いた後、種が飛び散り、「なんくるみー」(自然に芽を出した植物)でどんどん広がっていくという。バナナやビワ、桃など果樹も多い。実がなると味見をし、種を畑に捨てる。すると翌年、新しい芽が顔を出す。農園は力強い生命力に満ちあふれている。
農薬や化学肥料は一切使わない。ススキなど草木をチップにして鶏ふんと混ぜた肥料を使用。毎日、農園に足を運び、野菜や果樹についた虫を取り除いたり、雑草を取ったり、愛情込めて育てている。
農業体験で魅力伝え
ハーブで石けんや化粧水なども作り、生活の中でさまざまな活用をしている新里さん。「ハーブは見るだけでなく、摘んで、嗅いで、食することもできます。花もかわいい。とても癒やされるので、みんなに楽しんでもらいたい」。そんな思いから10年前、農業体験を始めた。率先して手伝う息子たちは、頼もしい存在だ。
ローゼルの良さを広めたいと収穫期の11月に摘み取り体験を実施。また、息子たちが手作りしたドラム缶釜で焼くピザ作りは、ハーブや野菜を収穫し、ピザの具にする。手作り石けんやレモングラスの草履作りも好評という。
新里さんは、本島南部で地産地消や農業体験を行う農業者の団体「みなみの味グリーン・ツーリズム」や、「なんぶグリーン・ツーリズム研究会」のメンバーとしても活動する。「沖縄のハーブもたくさんあります。勉強しながらいろいろなハーブを育てていきたいです。楽しみながらマイペースでやっていきたいですね」と抱負を語る。季節ごとにさまざまな表情を見せるみどり農園には、穏やかでぜいたくな時間が流れている。
豊浜由紀子/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)