「表紙」2014年07月24日[No.1528]号
沖縄には約90種類のチョウが生息しているといわれる。その多くの羽に現れる色が青だ。アオタテハモドキやルリウラナミシジミなど青系の名が付いた種も多く、その青は光の角度で変化し、美しく輝く。そんなチョウに魅せられ、30年以上追い続ける医師の仲宗根和則さん(66)=西原町=は、「いくつになっても胸が高鳴ります」と少年のような表情になる。チョウを訪ねて旅し、飼育も行う。チョウを通して沖縄の野山の素晴らしさを伝えたいという。
共存することの大切さ
本部町崎本部で生まれ幼少期を過ごした仲宗根和則さんにとって、やんばるの山は遊び場であり友達だった。
「誰に教わるでもなく、虫を追いかけて『きれいだな』『面白いな』と見とれていました」と話す。特にチョウの華やかさと美しさは、少年の心に強く残った。
中学から那覇へ進学。那覇高校を経て、鹿児島大学医学部へ進み、17年間沖縄から離れた。その間、自然との触れ合いは一時途絶える。
結婚し、2女1男に恵まれ、勤務医として沖縄に戻ったことで、やんばるへの郷愁がよみがえった。「子どもたちを連れて、毎週やんばるへ通いました。自然の素晴らしさを感じてほしいというのももちろんありましたが、僕自身が行きたくてしょうがなかったんです」と笑う。
「沖縄は、海もきれいですが、山もとても美しい。多種多様な生物が高い密度で存在し、そして共存しているバランス感覚に引かれます」と話す。
DNAに刻まれた青
子どもたちが成長し、那覇市寒川に「なかそね和内科」を開業してからも、チョウを追う時間は仲宗根さんにとって欠かせないライフワークだ。
「チョウは、ハチのように刺すわけではないし、里山に近い場所に生息しているので見付けやすい。長く付き合う人が多いですね。僕自身30年以上たった今でも、『今日は何に出合えるだろう』と胸が高鳴ります」
沖縄に分布するチョウは、多くの種類に青が出現するという。「同じ青でも濃淡や明暗があって、それぞれをもっと知りたいという欲求をかき立てるんですよ」とその魅力を語る。
チョウにとって青は、生きていく上で重要な要素という側面もあるそうだ。「例えば、キラキラと光るルリウラナミシジミの青は、捕食者の鳥を警戒させます。ヤエヤマムラサキのように雌が雄を引き寄せるためアピールしている青もある。チョウのDNAにはある意味、青が刻み込まれていると思いますね」
自然のメッセージ
台風などでアジアなどから飛来する「迷チョウ」も仲宗根さんの興味をかき立てる存在だ。医師として多忙な日々を送るが、まとまった休みが取れる時期は、チョウを探す旅に出る。国内外の多種なチョウが集まる竹富島へは、日帰りしてでも訪れるそうで、「竹富詣で」と自身では呼んでいる。アジアを中心にした海外へは、「観光も買い物も素通りですからね、家族は誰も付いてきません。チョウがいる場所に、いかに長くいるかを考えてスケジュールを組みます」と真剣だ。
仲宗根さんの興味は、野山で集めた標本にとどまらない。農園と協力し、リュウキュウムラサキで掛け合わせを繰り返し、新しい模様を出現させたりルーツを確認したりする「累代飼育」でチョウの生態をより深く知ることに努める。
「育てていると、その一生の変化に興味が尽きません。子育てに似ているというか、人間の一生のように感じます」。雌と雄を交配させ、卵を産ませる。それが幼虫となり、種類ごとに決まった食草を与え育てる。さなぎを経て、やっと美しい羽を広げるのだ。
「チョウは、人に近い場所で生きています。安全で、樹があって花が咲いて、温度や湿度が心地良い空間で、舞い、休み、子孫を残します。その環境は、人間にとっても心地良い場所なんです」
人間も自然界で共に生きている。沖縄の、やんばるの環境を守ることとは…。チョウが投げ掛けているように感じるメッセージを次代へつなぎたい。そしてヒラヒラと舞う姿をいつまでも追い掛けたいー仲宗根さんの願いはシンプルだ。
島知子/写真・村山望(新星出版)