沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1599]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2015年12月10日[No.1599]号

母娘燦燦

母娘燦燦 — おやこ さんさん — 37

結い帯師 我喜屋 梨枝子さん
ONDOでやんばるスムージー 我喜屋 真由美さん

「結い帯」のように確かな絆で

 1本の着物の帯にはさみを入れることなく、結びの技術を駆使して作り上げる「結い帯」。タペストリーや卓上の飾り物として、特に外国人から人気があるという。「帯と着物の店 我喜屋」のオーナー我喜屋梨枝子さん(63)は重い病を乗り越え、「人と人を結ぶ縁を大切に、決して切れることのないように」との思いを込めて「結い帯」を制作。造形美をも追究し、妥協しないその姿勢を長男嫁の真由美さん(38)は「とても尊敬している」と話す。現在はスムージーの店を1人で切り盛りしながら、作っているものは違っても「自分らしく表現」することを、義母をお手本に模索中だ。



人と人を結ぶ縁 大切に

 「心に迷いや、少しでも嫌な思いがあるときは、たとえ明日納品という日でも帯は一切触らない。それほど私にとっては大事なものなんです」と話す梨枝子さん。帯と真剣に向き合い、結びのバランスが悪ければほどき、模様がうまく出ていなければデザインを変更する。その帯が持つ魅力を存分に引き出すために妥協はしない。

 「職人さんが織り込んだ絵柄1つにしても、きっと見せたくて作ったんだろうなと思うとぞんざいなことはできない。何とかして表から見えるようにしてあげたい」と人の思いを大事にする。客から持ち込まれた形見分けの帯ならなおさらのこと。家族の思いに寄り添い、染みも故人の歴史だからと隠さず結ぶことを考える。そうして出来上がった「結い帯」をラッピングするときには、娘を嫁に出すような心境になるといい「大切にしてもらってね、なんて話し掛けるんですよ」と梨枝子さんは笑う。



自分らしく生きたい

 「帯と着物の店 我喜屋」は2010年、沖縄市中央にオープン。当時、長男嫁の真由美さんは、かりゆしウエアを縫ったり、米軍基地内のバザーで販売したりするなど、子育てをしながら梨枝子さんの手助けをしてきた。

 真由美さんが、梨枝子さんの長男・竜一さん(36)と結婚したのは2003年。結婚式は梨枝子さんの誕生日に行った。前夜、真由美さんと竜一さんは内緒でケーキを作り、披露宴で誕生日を祝うサプライズをした。女手一つで3人の子育てをしてきた梨枝子さんは、今でも思い出しては涙が出るほど最高に感動的な出来事だったと振り返る。 

 そのころ、父親が設立した老人ホームで働いていた梨枝子さん。姉を子宮がんで亡くしたあと、自らも乳がんを発症するという苦しい時期も経験している。医師から告知を受けたときは、県から助成金をもらうなどしてデイサービスに関わる大きな事業を手掛けていた。園長を務めていた梨枝子さんは、この仕事が終わるまではと半年もの間、病気のことを誰にも話さなかったという。

 ようやく仕事に区切りがついて手術をし、辛い抗がん剤治療も乗り越え職場に復帰。術後2カ月で再発するだろうと話していた医師も不思議がるほどの回復ぶりだった。

 「食べ物もろくに口にできないときに、真由美がいろいろと食事を作るなど面倒を見てくれました。支えてくれた家族はありがたい存在。一番の財産です」と話す。

 その後、23年間勤めた老人ホームを退職。梨枝子さんは転機を迎える。交流のあった和物装飾品や着物を取り扱うインテリアショップのオーナーから、店を継いでほしいという話を持ちかけられたのだ。もともと着物が好きで、着付け師範などの資格を取得していた梨枝子さんは運命のようなものを感じたという。その店を引き継ぎ「帯と着物の店 我喜屋」としてスタート。以前から引かれていた帯のタペストリーをアレンジした「結い帯」を生み出した。梨枝子さんは、これまでたどった道のりを振り返り、人とのつながりや絆を帯で形として昇華させることが「使命のように思える」と真剣な表情を見せる。

 そんな梨枝子さんを目標にする真由美さんは現在、今帰仁村で「ONDOでやんばるスムージー」をオープンしたばかり。初めての挑戦に試行錯誤しながら自分を見つめ直している。「私もお母さんのように、いくつになっても自分らしく生きていきたい。自分の意志を通して進んでいく姿をいつも尊敬しています」と語る。梨枝子さんは「商売はお客さんから教えてもらうことがたくさんある。聞く耳を持って、新しいことにどんどんチャレンジしてほしいですね」とエールを送る。

 縁あって義理の母娘として結ばれた梨枝子さんと真由美さん。2人はしっかりと結ばれた「結い帯」のように確かな絆でつながっている。



プロフィール

がきや・りえこ
1952年、今帰仁村生まれ。高校卒業後、一時期、大阪で働いた後帰沖。父が設立した老人ホームに就職し、経理担当を経て2代目園長に就任。2010年「帯と着物の店 我喜屋」オープン。販売の他、着付け教室なども行う。同店は、地域の人が集う「街のサロン」的存在を目指している

がきや・まゆみ
1977年、今帰仁村生まれ。県外の短期大学卒業後、さまざまな仕事を経験し、今年9月に今帰仁村にあるMUSIC BAR ONDOにて「ONDOでやんばるスムージー」をオープン。なるべく地元の食材を使うようにするなど健康を意識したスムージー作りに励む

帯と着物の店 我喜屋
沖縄市中央1-33-15
☎098-939-3696

ONDOでやんばるスムージー
今帰仁村謝名613 消防署裏
☎090-4617-0210


このエントリーをはてなブックマークに追加



我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
我喜屋梨枝子さん(左)と長男嫁の真由美さん。「帯と着物の店 我喜屋」オープン当初、梨枝子さんの長男・竜一さんも一緒に3人で働いていた。梨枝子さんは新しい仕事を始めたばかりの真由美さんを優しく見守っている=沖縄市中央
写真・村山 望

我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
竜一さん(後列)、真由美さん夫妻の長女ねねちゃん(中央)と次女綺璃(きり)ちゃん(前列)
我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
スムージーを作る真由美さん
我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
ねねちゃんの100日祝いに。前列右は梨枝子さんの長女しのぶさん(アメリカ在)。左は次女れいさん(福岡在)
我喜屋 梨枝子さん我喜屋 真由美さん
卓上タイプの「結い帯」
>> [No.1599]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>