「表紙」2016年05月05日[No.1619]号
海ぶどうを世界ブランドへ
「沖縄の海ぶどうを『グリーンキャビア』として世界に通用するブランドにしたい—」。糸満市真栄里を拠点に、海ぶどうの養殖と加工品開発を行う山城幸松さん(69)と山城由希さん(33)の父娘はこう夢を語る。那覇市出身で、東京で空気清浄機サービスの事業を成功させた父・幸松さん。11年前、故郷・沖縄への思いから海ぶどうの養殖に乗り出し、今では事業の柱となった。注目されるきっかけとなったのは、父の事業をサポートする東京育ちの娘・由希さんが、持ち前のセンスを生かして開発した海ぶどうのアイスだった。
娘のセンスがヒット生む
糸満市真栄里、北名城ビーチのほど近く。自然のままの姿を残した海と砂浜を背に、白い木造の家が建つ。映画のワンシーンを思わせるのどかで美しいこの場所が、日本バイオテックの海ぶどう事業部門「海ん道(うみんち)」の事務所と養殖場だ。
「ここはもともと野原で、車エビの養殖場だったんですよ」と山城幸松さん。11年前、海ぶどうの養殖に乗り出してから、養殖場も事務所も、幸松さん自ら建材を運び柱を建て、手作りで作り上げていったという。
50代で海ぶどう事業へ
幸松さんは那覇市の出身。小禄高校を1期生として卒業後、明治大学に進学。学生運動に携わった後、若くして出版社を起業し、次いで鍼きゅう医・接骨医を営むなど激動の人生を歩んできたが、30代半ばで空気清浄機の保守・清掃のサービスを提供する会社「空気清浄機サービス」を立ち上げた。事業は順調に展開。1985年に株式会社化し、商社部門の株式会社日本バイオテックも設立。業績を伸ばしていった。
海ぶどうの事業に乗り出したのは2005年。県出身であることを生かし、東京で展開していた物産店「沖縄市場」で、海ぶどうが一番売れたことから将来性を見いだしたという。
「海ぶどうは緑のつやが美しい。いろんな料理に合うし、きれいな器に盛り付ければ最高の飾りになる」。山城さんは海ぶどうを「グリーンキャビア」として世界的なブランドにすることを思い立ち、海の向こうの国にまで海ぶどうを届けたいという願いをこめ、海ぶどう事業部門を「海ん道」と名付けた。
父は最高の相談相手
「今の時代、商品は見せ方が大事。ブランド化にも、デザインセンスが必要」と幸松さん。「その意味で、彼女みたいな人が向いているんじゃないかな」と娘の由希さんを評価する。
由希さんは東京で生まれ育ち、慶應義塾大学を卒業後、本土の大手企業に3年ほど勤務。仕事は充実していたが、「アドレナリンが出るベンチャー的な生き方のほうが面白い」と退職し、立ち上げ途上の海ぶどうの事業に参入。本土のニーズを的確につかみ、販売ルート・流通システムを意欲的に開拓していった。
最初は東京を拠点に営業活動を行っていた由希さんだが、7年前に沖縄に移住。海ぶどうの養殖・販売、加工品の開発まで、幅広い事業を担当するようになった。
「東京と沖縄のギャップはあまり感じませんでしたね。どこにいても、自分の考え方は変わりませんから」
ルーツを沖縄に持ちながら東京で育った由希さんは、県内・県外、両方の視点を持てるのが強み。そんな由希さんが生み出したヒット商品が、海ぶどうの粒を入れ込んだアイスだ。フレンチのシェフの発想をヒントに、試行錯誤の末、商品化に成功。2013年にはテレビ番組の全国のアイスクリームランキングで1位を獲得するなど、評判を呼んだ。
プライベートでは仲がよく、けんかをしたことがないという2人。しかし仕事となると激しく意見を戦わせ、時には父から娘に厳しい言葉が投げられることもある。
「でも、ビジネスの考え方は根底で驚くほど一致していますから、父に何を言われても平気ですね(笑)」。他の人だと考えがぶれてしまうこともあるため、最後は必ず父に相談する、と由希さんは笑う。
海ぶどうを麺に練り込んだ海ぶどう麺の開発や、観光客への摘み取り体験サービスを提供するなど、事業のアイデアは尽きない。県産の海ぶどうを宝石のようなブランドに育てるため、父娘の挑戦は続いていく。
(日平勝也)
プロフィール
やましろ・こうまつ1947年那覇市生まれ。小禄高校卒業後(第1期生)、明治大学に進学。1985年に株式会社空気清浄機サービス、株式会社日本バイオテックを設立し、代表取締役に就任。2005年から糸満市真栄里を拠点に海ぶどう養殖・加工品開発にも乗り出した。加えて株式会社 沖縄海上飛行機開発の代表取締役、書籍「沖縄の真実」(学研パブリッシング・刊、共著)の執筆などマルチに活躍。プライベートでは2男1女の父、2人の孫の祖父
やましろ・ゆき
1982年東京都生まれ。慶應義塾大学を卒業後、本土の大手企業勤務を経て、日本バイオテックに入社。父・幸松さんが立ち上げた海ぶどうの事業に携わり、海ぶどうの粒を入れたアイスなど注目商品を生み出す。7年前から沖縄に移住し、日本バイオテックの海ぶどう事業部門「海ん道」で、養殖から販売、加工品の開発、摘みとりサービス体験の提供まで幅広い事業を担当。日本バイオテック取締役、食材事業部 営業統括部長。1女の母
海ん道 糸満市真栄里1931
☎ 098(994)0016
www.uminchi.com
写真・村山望