「表紙」2016年11月10日[No.1646]号
言葉で踊りで 伝える想い
「言葉を通して、沖縄の人々の想い(うむい)を伝えたい」と、中学校の体育教師を務めながら、ラジオパーソナリティー、舞台の脚本・執筆など、枠にとらわれない幅広い活動を行っている又吉弦貴(つるき)さん(53)。弦貴さんの娘、又吉まことさん(21)は、先月開催された「第6回世界のウチナーンチュ大会」開会式で琉球古典芸能とバレエを融合させた創作バレエ「琉球クリエイティブ」を披露した新進気鋭のバレリーナ。「自分は言葉、まことは踊り。表現方法は違うけど、沖縄のプラスアルファの魅力を発信したいという想いは同じなのかな」と弦貴さんは話す。
プラスアルファの魅力を世界へ
ラジオ番組のパーソナリティー。基地問題をテーマにした演劇「フェンスに吹く風」の脚本・演出。演劇を取り入れた道徳教育—。
中学校の体育教諭でありながら、枠にはまらない活躍を繰り広げている又吉弦貴さん。幅広い活動を貫くのは「一つの言葉が、人の気持ちを変化させる」という想いだ。
弦貴さんは、過去に、ある女子生徒の一言から、言葉の大切さを学んだという。
「清掃時間、ゴミ箱に袋を丁寧に結んでいた生徒に、『あ、○○でもできるんだ』と何気なく言ったんです。褒め言葉のつもりだったんだけど、彼女から『○○もできるんだ、でしょ?』と直された」
「で」の一文字が入るだけで、人をさげすんだようなニュアンスが生まれる。弦貴さんは、言葉は使い方一つで人を喜ばせもし、悲しませもすることを実感した。
DJ先生の奮闘
「『雨は土を育て、涙は人の心を強くする。言葉はきっと明日をおいしくする』というのが私のコンセプト。ラジオの活動も、ここにつながってくるんです」
弦貴さんは勤務先の中学校の校内放送でDJ(ディスクジッキー)を務めたほか、コミュニティーFMに積極的に出演。北谷町のFMニライのパーソナリティー募集にも自ら応募し、インターネットを通して全国で聴くことができる同局の看板番組「コーストライン」のパーソナリティーの1人となった。
「方言で『うきみそーちー』という言葉がありますね。『起きていますか』という意味ですが、『元気でいますか』と相手を気遣う想いも込められている。沖縄には、こうした思いやりのある言葉がたくさんあることを、全国の人々に伝えたい」
「沖縄の実情を知ってほしい」と、中学生が基地問題について考える復帰40年記念演劇「フェンスに吹く風」の演出・脚本も担当。東京の映画プロデューサー・吉田啓さんの目に留まり、脚本が小説化され全国で出版された。
世界へ向けて踊る
弦貴さんの娘、まことさんは、新進気鋭のバレリーナ。先月開催された「第6回世界のウチナーンチュ大会」開会式では、琉球古典芸能とバレエを融合させた創作バレエ「琉球クリエイティブ」を踊った。
バレエを習い始めたのは3歳の時。成長するにつれ同期生たちが次々とグランプリに輝く中、なかなかトップになれずにいたが、昨年の「第5回琉球新報国際バレエコンクール」クラシックバレエ部門シニアで初めて1位を獲得。
「その時は自分の踊りに集中できました。順位のことは全く考えていなくて、後から実感が湧いてきました」とほほ笑む。
「バレエに関わる仕事をしたいという思いがずっとありました」というまことさん。高校卒業後は、自身が育ったバレエスクール「N・Sバレエアカデミー」の教師を任され、またプロのバレリーナとして朝早くから夜遅くまでバレエ漬けの毎日を送る。
「まことはどんな時も冷静に考えて、一つ一つのことを丁寧にできる。成人式の日にも普通に起きて皿洗いとトイレ掃除をして、自分にバッグをプレゼントをしてくれたんです。感動しましたね」と弦貴さんの言葉に、「父はどんな小さな舞台でも必ず見に来てくれるのでうれしい」とまことさんは笑顔を見せる。
将来はマネジメントの業務も担うことも視野に入れ、創作バレエ「琉球クリエイティブ」を世界に発信したい、と話すまことさん。
言葉とバレエ(言葉の表現がない)という違いはあるが、沖縄のプラスアルファの魅力を世界に伝えたい、という強い想いは父と同じ。沖縄への想いが、父と娘の絆をさらに強く、確かなものにしていくに違いない。。
(日平勝也)
プロフィール
またよし・つるき1963年生まれ。那覇市立古蔵中学校教諭。専門は保健体育。2009年より北谷町のFMニライでラジオパーソナリティーとしても活躍。2012年、全国中学文化祭(栃木県)で沖縄県中学選抜演劇団の舞台監督として「フェンスに吹く風」を上演。脚本、演出を手がける。道徳教育にも力を入れ、2012年に日本教育公務員公立共済会沖縄支部・教育論文で優良賞を受賞。那覇市、浦添市では道徳教育教科指導員を務めた。現在、朗読ライブ活動中
またよし・まこと
1995年生まれ。3歳より長崎佐世さん主宰の「N・Sバレエアカデミー」でレッスンを受ける。2015年、「第5回琉球新報国際バレエコンクール」のクラシックバレエ部門シニアで1位を獲得。高校卒業後はN・Sバレエアカデミーの教師を務めつつ、沖縄古典舞踊とクラシックバレエを融合させた創作バレエ「琉球クリエイティブ」を専門とする「N・S琉球バレエ団」の一員として活躍。「第6回世界のウチナーンチュ大会」の開会式で踊りを披露した
写真・村山望