「表紙」2017年06月29日[No.1679]号
故郷の文化伝えたい
西原町津花波にある「リカルド・島袋 エスパーニャ・フラメンコ・スタジオ」。国際的な雰囲気のなか、フラメンコを学べる教室として知られている。今まで多くの生徒を指導してきたアルゼンチン出身の島袋リカルドさんと妻の泉川由美さん。教室での指導の傍ら、ステージ活動にも精力的に取り組んでいる。性格は正反対という2人の共通点は踊りや家族、さまざまなことに対して愛情を注いでいること。伝統的フラメンコを伝えながら、絆を深めてきた。
伝統の踊りを継承
リカルドさんはブエノスアイレスの港町、ラ・ボカで生まれ育った。父の正吉さんは今帰仁村からアルゼンチンに移住した県系人、母マリアさんはスペインとトルコの血を引く元ダンサー。幼い頃から、スペインからアルゼンチンに移民者が伝えたタンゴやフラメンコなどの伝統舞踊を母に習い、地元に住む多くの移民たちの踊りを身近に見てきた。
家計を助けるため、15歳から夜間学校に通いながら働いた。16歳で憧れだった有名ダンス学校「ノエミコエロ・ロドルフォギン舞踊団」の特待生オーディションに合格。仕事、夜間学校と並行して、ダンス学校に通い、腕を磨いた。
19歳のとき、出稼ぎのため来日。栃木の鉄工場で働いた。約2年後には、両親とともに父の故郷・沖縄に移住した。
由美さんとの出会いは18年前。那覇の街を歩いていると、社交ダンスホールに貼ってあった写真が目に入った。リカルドさんは「母がここでタンゴを踊れる」と大喜び。ところが、入店すると、面接に来たダンサーだと勘違いされ、店長に踊るように促される。リカルドさんは、言われるままにタンゴやフラメンコなどを披露した。
出会った日にペア結成
その姿に感動したのが由美さんだ。ダンサーになる夢をかなえるため、昼間の仕事の後、社交ダンスホールで働き始めたばかりだった。
「こんなダンスを習いたい。一緒に踊りたい」。ペアを組んで一緒に踊ると、リカルドさんも由美さんが心からダンスが好きだというのが分かった。
2人は店長から2カ月後のショーにペアで出演するよう依頼される。仕事の後、毎晩のように屋外で練習に明け暮れた。「気付いたら2、3カ月後に付き合っていた」と由美さん。
「日本からはアルゼンチンが地球の反対側に位置するように、私たちは性格も正反対」と由美さんは笑う。文化も何もかも違う2人は当初は衝突も多かった。それでも、踊ることで絆を深めていった。
本場での評価励みに
「白黒のビデオから出てきたみたい」「天然記念物並み」。リカルドさんの踊りを見た現地の人たちはいう。
リカルドさんの踊りは、振り付けを決め、完璧にタイミングをそろえる現代のフラメンコのスタイルからは一線を画す。「歌を聞き、即興で気持ちを体で表現する」というスペインの伝統的なスタイルを貫いている。
リカルドさんと由美さんは「伝統的なダンスを知ってほしい」という思いからステージ活動などに励み、2005年には念願の教室をオープンした。
しかし、苦しかった時期もあった。リカルドさんの昔ながらの踊り方に対して「こんな踊り方はフラメンコではない」と言われたこともあった。競争が多い世界で批判や差別を受け、10年前に心が折れてしまった。
そんな時、リカルドさんは、母マリアさんにスペインの有名な大会「アレグリアス舞踊コンクール」に出ることを勧められた。世界中からプロが集まる大会。誰も応援する人がいないところで自分を試す最後の賭けだった。
当日、リカルドさんが踊り終わると、鳴り止まない拍手と歓声が起こった。現地の人たちが認めてくれた瞬間だった。生中継をネットで見守った由美さんも、いつもと同じように踊り、観客から大拍手を送られる姿を見て泣いていた。
さまざまな困難を乗り越えてきた2人。約4年前に結婚し、2014年に西原町にスタジオを移転。再スタートを切った。
「子どもからおじい、おばあまでが踊れる大衆の文化、フラメンコやタンゴが大好き」と笑うリカルドさん。祖国の舞踊を広めたいと願うリカルドさんを「これからも支えていきたい。幾つになっても夫婦で踊り続けていきたい」と由美さん。これからも二人三脚で支え合っていく。
(坂本永通子)
円満の秘訣は?
由美さん:分かるまで何度も話をする。たった1つのことが足りなかったというのが後になってよくある。お互いを尊重しつつ、理解し合っていくことが大切。リカルドさん:心の中にあるものを相手に全部吐き出すこと。嫌だと思った事は時間をかけても話し合って、お互いに悪いところを直しながら一緒にいる。
プロフィール
いずみかわ・ゆみ:浦添市生まれ。幼少時に琉球舞踊、三味線を経験。1999年、社交ダンスの大会「全沖縄ダンス競技大会」準優勝。同年、フラメンコとアルゼンチンタンゴをリカルドさんに師事。社交ダンスの教師としても活動。2014年よりフラメンコおよびタンゴ・ダンサーに転向し、夫婦でステージ活動を行っているしまぶくろ・りかるど:アルゼンチン・ブエノスアイレス出身。16歳の時「ノエミコエロ・ロドルフォギン舞踏団に特待生で入団。1991年に日本に移住。2000年からフラメンコおよびタンゴダンサーとしてステージ活動を開始。現在は県内外のイベントにも出演。14年に西原町にフラメンコ教室をオープン
リカルド・島袋 エスパーニャ・フラメンコ・スタジオ
お問い合わせ ☎090-1940-1027
http://ricardoshimabukuro-espana-flamenco-studio.webnode.jp/
写真・喜瀨守昭(サザンウェイブ)