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[No.1683]

  • (金)

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「表紙」2017年07月27日[No.1683]号

ザ夫婦

ザ・夫婦(み〜とぅ) 17


Gelateria Yahata(ジェラテリア ヤハタ)
八幡 邦夫さん 八幡 奈巳さん

故郷離れ新たな挑戦

 シークヮーサー、島バナナ、紅イモ……。県産素材を使った季節のジェラートがカフェの店頭に並ぶ。本部町瀬底島で、昨年「Gelateria Yahata(ジェラテリア ヤハタ)」をオープンした八幡邦夫さん(39)と妻の奈巳さん(39)は、「体にいい県産素材の商品を提供したい」と無添加のジェラートや、手作りのランチを提供している。2011年3月、東京電力福島第1原発事故により、福島県から沖縄に移り住んだ夫妻。二人三脚で店を切り盛りしている。



震災直後に家族で避難

 透明度の高いエメラルドグリーンの海が広がる瀬底島。自然豊かなこの地で八幡邦夫さんと妻の奈巳さんは1年前にカフェをオープンした。

 福島県浪江町で育った邦夫さんと奈巳さんは、中学校の同級生。23歳のころ、東京から福島に戻った奈巳さんが地元の飲み会に参加し、2人は再会。交際がスタートした。

 その後、結婚を機に奈巳さんの両親が営む居酒屋を受け継いだ。「父と母が魚屋から始めた店。約30年にわたり人脈を築いてきた」と奈巳さん。地元に愛された店を約10年間奈巳さんの両親と夫婦で育ててきた。

 2011年の3月11日。東日本大震災による東京電力福島第1原子力発電所の事故により、一家の生活は激変した。

 当時、娘2人と福島県浪江町に住んでいた八幡さん一家。原発から近い同町は避難区域となり、翌日住み慣れた故郷を出ざるを得なくなった。

 奈巳さんの両親とともに、福島県二本松市や埼玉県東松山市に身を寄せた後、同年3月末に、沖縄県に避難した。

沖縄での支援に感謝

 「沖縄に来た日のことは今でも忘れない」と話す邦夫さん。真っ先に支援にきてくれた人、おにぎりを持ってきてくれた隣人、市役所の手続きを手伝ってくれた自治会長……。一家に多くの人が手を差し伸べてくれた。

 夫妻は沖縄で再び店を始めることを目指した。「海が見えるところを探していた」という奈巳さんの希望もあり、最終的に瀬底島の海のそばの物件に決まった。邦夫さんは「自然豊かで、故郷に近い部分がある」と瀬底島に懐かしさを感じたそうだ。

 1年がかりでリフォームを行い、去年の7月15日に念願のオープンにこぎつけた。

 「アイスが好きで、頭から離れなかった。県産の体にいいものを提供したい」という思いから、無添加のジェラート販売を始めた。同店は「ジェラテリア(ジェラート屋)」という店名のとおり、常に14種類のジェラートがそろう。ランチも人気で、オリジナルのスパイスに漬け込んだ「ジャークチキン」など、数種類のメニューを提供している。

 「お世話になった人たちに少しずつ恩返ししたい」との思いを抱く2人は、店内で支援してくれた人の商品の委託販売も行っている。

仕事も育児も協力

 店では料理が得意な邦夫さんが厨房の仕事をすべて行い、奈巳さんがサポート。邦夫さんは「妻は自分ができない部分をこなしてくれる。海外からのお客さまにも、英語で対応してくれて助かる」と高校1年生の時に経験した世界5カ国への1人旅をきっかけに、50回以上の海外旅行に出掛けた奈巳さんの英語力に感謝する。

 高校1年生と中学3年生の娘、沖縄で生まれた4歳の長男の親でもある八幡さん夫妻。家事や育児、子どもの送り迎えなども、協力して行っている。邦夫さんが「ずっと店で料理しているので、家で夕飯もやりたくない」とこぼすと、奈巳さんは「共働きだからしょうがない」とすかさず返す。その姿は面白く、夫婦漫才の掛け合いのようだ。

 邦夫さんは2人の性格を「お互い頑固でけんかしてもなかなか謝らない」と話す。「仕事の時は引きずったら働けないので、割り切ってやっている」と奈巳さんが言葉を重ねる。オンもオフも24時間一緒の夫妻は仕事とプライベートの区別を守りながら生活している。

 2人はお互い、いるのが当たり前の存在。だからこそ奈巳さんが本土に帰ったときなどは「寂しい、落ち着かない」と邦夫さんは感じる。

 7月15日でオープンから1年を迎えた。「今でも試行錯誤しながらやっている」(奈巳さん)。「時間をかけて店を発展させていきたい」(邦夫さん)。夫婦の新たな挑戦は始まったばかりだ。

(坂本永通子)



円満の秘訣は?

邦夫さん:問題は後に引くとまた二言三言増えてしまうので、その時に解決する。次の日はもやもやしていても、引きずらない。

奈巳さん:思ったことは言うけど、いい過ぎないこと。言い過ぎるのも、ためすぎるのもよくない。

プロフィール

やはた・くにお: 1977年8月19日、福島県浪江町生まれ。福島県内の工業高校を卒業後、溶接工などとして働く。奈巳さんと結婚後、義父母の営む居酒屋「北のだいどころ」を引き継ぐ。福島県ではサーフィン三昧の生活を送っていた。2011年、東日本大震災を機に沖縄に家族で移住。16年7月、本部町瀬底島でジェラテリア ヤハタをオープン

やはた・なみ: 1977年9月18日、北海道小樽生まれ。4歳の時に福島県浪江町に移住。福島県立磐城女子高等学校卒業後、ハリウッド美容専門学校(東京都港区)で美容師の技術を学ぶ。卒業後、エステ店に勤務。結婚後、両親の居酒屋を夫婦で継いだ。1男、2女の母

ジェラテリア ヤハタ
国頭郡本部町瀬底2513-1
☎0980-43-6546
営業時間=11時〜16時30分
定休日=不定休
〔HP〕 http://sesoco.blue/

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八幡 邦夫さん 八幡 奈巳さん
店内でくつろぐ八幡邦夫さんと奈巳さん。2人の経営するカフェに並ぶジェラートは常時14種類。エメラルドグリーンの海が見えるテラス席は観光客に人気だ=本町瀬底島のジェラテリア ヤハタ
写真・村山 望
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