「表紙」2019年02月14日[No.1764]号
子どもや高齢者に寄り添い 文化継承
沖縄ハンズオンNPOが運営する浦添市立前田ユブシが丘児童センターは、子どもの居場所というだけでなく、利用したい人が集う異年齢・多世代交流ができる場所だ。沖縄の文化を大切にし、「はいさい」「ゆたさるぐとぅうにげーさびら」などしまくとぅばが飛び交うこの場所で、子どもを「自立と自律」へ導く沖縄ハンズオンの地域プログラムコーディネーター宮里ジュンさん(29)と同児童センター厚生員の崎山倫さん(23)に話を聞いた。
前田ユブシが丘児童センターは2010年に開所し、15年から沖縄ハンズオンNPOが指定管理者として運営を始めた。さまざまな活動を通して地域の人々と関わリ合い、たくさんの学びを得る機会を提供している。
しまくとぅばを学ぶ
「児童センターで大事にしていることの一つに『育てるから育ちへ』というモットーがあります。私たちが子どもたちを育てるところから、一歩進んで『気づき』を促す環境作りです」と話す崎山さん。例えば職員が紹介したい本を棚の上に飾っていると、自分が好きな本も紹介したいといって自ら掲示物を作ったりするなど、子どもが主体的に行動するようなちょっとした仕掛けだ。
児童センターにはしまくとぅばの掲示物も多く、「これどういう意味?」と興味を持ってもらえるような仕掛けもあり、遊びにもしまくとぅばを取り入れている。
また、地域の人々と作る独自性のあるプログラム「もちつきぬ儀式」でウビナディ(若水を額に付ける健康を願う儀式)を行うなど、沖縄の文化を学べる場も多い。
宮里さんは「しまくとぅばは文化の入り口」だといい、「子どもたちがしまくとぅばを学ぶことで、少しでも地元の文化を知る機会になればと思います。また、おじいちゃんやおばあちゃんが使っていた言葉なんだと知ることで郷土愛を育くんだり、自信にもつながったりするのかなとも思っています」と話す。
すくぶん果たすため
自治会と協力し、子どもや高齢者の見守り活動にも力を入れる。
犯罪が起こりやすい「入りやすくて見えにくい」場所を重点的に見回るホットスポット・パトロールを、子どもたちも一緒に行い危険な場所を確認してもらう。
「実は3年前、この地域で行方不明になった認知症の方が亡くなりました。人がなかなか行かない場所で、年一回の地域の大掃除のときに見つかったんです」
宮里さんは多くの人が情報を共有し、当事者意識を持ってそれぞれができる範囲で協力していたら発見できたのでは、と口惜しさをにじませる。傍観者にならず、地縁や血縁を超えた志を共にし、「志の縁」でつながることが大事だと考える。これを「志縁家族拡大活動」として展開。子どもたちが外へ出て地域の人と触れ合う機会も作っている。
「子どもや高齢者に寄り添っているのは危機感のようなものがあるからだと思う。やらなきゃいけないというすくぶん(役割)ですかね? 使命感がすごくあります。夢や目標を語れる子どもがなかなかいないことにも危うさを感じています。幼少時代に何かを全力でやって感動したり、泣いたり怒ったり、いろいろな経験をしてほしい」と熱く語る宮里さん。
一方、崎山さんも「わったーすくぶんを担う使命を感じている」という。「一番は人の命に関わる部分。そして、しまくとぅばで話すこと。高齢者や認知症の方への声掛けの一つの方法として使ったり、しまくとぅばで話し掛けることで子どもの心の変化を感じたり。すべての活動の根底にしまくとぅばがある」と力説。「この仕事に就くきっかけも、しまくとぅばでした。ある場所でベンチに腰掛けていたら宮里さんにしまくとぅばで声を掛けられたんです。『地元の話を題材にした舞台を一緒にしないか』と言われて。熱い人だなと思いました」と笑う。
宮里さんもまた、「僕たち同じ地元人なんで『一緒に学ぼう。明日からおいで』と言ったら本当に来た」と振り返り笑った。
ユネスコにより、消滅の危機に瀕(ひん)する言語に指定された「しまくとぅば」。そのしまくとぅばを大切にしながら、わったーすくぶんを果たすべく尽力する2人の若者を頼もしく思った。
(﨑山裕子)