「表紙」2019年08月08日[No.1788]号
「世界一かわいいみそ屋」を目指して
八重瀬町当銘の「菊みそ加工所 夢工房」は、ケーキやクッキーなどの洋菓子の製造・販売も手掛けるみそ店だ。「世界一かわいいみそ屋を目指しています」と代表の平安名陽子さん(54)は笑う。名物はみそとシフォンケーキを組み合わせた「みそシフォン」。独特の風味をめあてに、県内外から多くの客が訪れる。
「菊みそ加工所 夢工房」の顔とも言える人気商品「みそシフォン」。「みそ」と「シフォンケーキ」という意外な組み合わせに驚かされる。
しかし、実際に食べてみると、相性がピッタリであることに気付く。ふんわり、しっとりしたシフォンケーキの生地に、みその香りとコク、ほんのり広がる塩味がアクセントとなり、絶妙な余韻を残す。みそとケーキが互いの風味を引き立て合っているのだ。
みそを使う理由はシンプル。同店は、もともとみそ加工所として出発したからだ。後に洋菓子の販売も始めるが、「私たちの気持ちは今もみそ屋です」と陽子さんは笑う。シフォンケーキやクッキーに入れるみそはすべて同店で手作りしており、みそそのものやアンダンスー、焼き肉のたれ、ごまみそドレッシングなどの加工品の販売も行っている。
母のみそを受け継ぐ
同店の前身である「菊みそ加工所」は、現在の代表である平安名陽子さんの母・永山菊江さん(85)が、1987年に設立。「『菊みそ』の『菊』は、母の名前からなんですよ」と陽子さんは説明する。菊江さんは、添加物を使わないみそ造りにこだわっており、陽子さんもそうした昔ながらの製法を受け継いでいる。
みそは麹と大豆、塩を混ぜて造られる。「今は(みその発酵に欠かせない)麹も、多くは機械で作られていますが、うちでは手づくり。お米を蒸して麹菌を入れ、シーツや毛布で包んで発酵させる天然醸造という方法で製造しています」と陽子さん。国産の大豆、沖縄の海から取れた塩、九州産のお米など、原料にも気を使い、防腐剤なども使用していないという。
みそは3カ月以上しっかり寝かせて熟成させる。そうすることで、甘みが増し、シフォンケーキに合う風味となる。普通のみそでは塩辛く、シフォンケーキに合わないそうだ。
防腐剤を使わないぶん、製造したみそをスーパーなどに卸すことはできない。しかし「うちで売れる分だけお客さんに売れればいい」と陽子さんは話す。
口コミで人気に
同店が洋菓子の販売をスタートしたのが、陽子さんが母から店を受け継いだ2005年。夫がパティシエだったこともあり、商工会から「ケーキを作ってみたら」と勧められ、開発に挑んだ。
最初は、周辺の畑で栽培していたオクラ入りのシフォンケーキを試作。試行錯誤の末、一カ月がかりでようやく成功した。「オクラでできるなら、みそでもできる」とみそシフォンを作ってみたところ、口コミで話題となり、人気に火がついた。
みそ加工所の一角にショーケース1個を並べただけの状態からの出発だったが、段階的に売り場を拡大し、11年にほぼ現在の姿に。今では、県内各地や離島はもちろん、来沖時には必ず訪れるという県外のファンも多い店に成長した。
「菊みそ加工所 夢工房」という店名は、母から受け継いだ菊みそ加工所の名を残しつつ、「夢がかなうように」との思いから、「夢工房」という言葉を付け加えたもの。現在は、長男の常滝(つねよし)さん(33)、長女の美玲さん(31)、次女の亜美さん(21)さんの4人が中心となり、店を営む。みそ造りは陽子さん、お菓子作りはパティシエの息子、娘が担当するが、みそ造りで力仕事が必要な工程には常滝さんが手助けするなど、お互いにサポートし合う。
地域の人々を対象にみそ造り教室を開催したり、学校からの見学や職場実習を受け入れる活動も行っており、「将来は貧困のサポートにも取り組みたい」と陽子さんは語る。
サトウキビ畑やオクラ畑が広がる風景の中、昔ながらのみそを守り続ける同店をぜひ訪ねてみてほしい。
(日平勝也)
菊みそ加工所 夢工房
八重瀬町当銘254
営業時間=10時〜19時
定休日=毎月2日、水曜日
駐車場=あり
☎️098-998-0219