「表紙」2019年08月22日[No.1790]号
空気のように寄り添う音楽
音楽をじっくり聴きたい時、音楽を語りたい時、そしてジャズとの出合いを求める時に訪ねたい、与那原町の「ジャズバー コスモス」。1976年の開店当時から、ジャズやポップス、ロックなど、いろいろな音楽を高音質のスピーカーで流している。ジャズへの思い、また喫茶店からバーに変わった店の歴史などを、オーナーとマスターに語ってもらった。
店を始めて40数年過ぎた現在もオープン当初と変わらず、時が止まったような空間の「ジャズバー コスモス」。買い集めたレコードとCD計6千枚以上というオーナー、西銘紀夫(にしめ・のりお)さんのコレクションの一部が店内に並ぶ。
「子どものころから音楽が好きで、ラジオを聴き洋楽にはまりました。父も音楽好きで、家に蓄音機があったんですよ」
中学生になるとレコード店で洋楽のアルバムを購入し、自宅で聴き楽しんでいたそうだ。そして20歳のころ、音楽観が劇的に変わる出来事が起こった。
「本土の大学に進学した弟が持ってきたジャズのレコードを聴いた時、衝撃的な1曲に出合いました!」と、西銘さんは興奮気味に振り返る。
その1曲とはシャンソンの代表曲「枯葉」。レコードからはジャズ界の帝王と呼ばれるトランペット奏者、マイルス・ディヴィスの演奏による「枯葉」が流れ、「表現も聴く側へのアプローチも耳になじんでいた曲調とは違う」と、西銘さんの心に響きわたった。この日からジャズに夢中になったそうだ。
一度は閉店を決めた!?
ラジオ番組や専門誌で入手した情報を元に、レコードを購入してコレクションを増やしていった西銘さん。
「たくさん集まったから、誰かに聴いてもらうために店を開こう」と決め、実家が経営していた氷屋の片隅にスペースを作り、コーヒーや軽食を提供する「喫茶コスモス」をオープン。当時は知念高校吹奏楽部の生徒が連日訪れ、西銘さんがすすめる曲を聴いていたという。
世界の数々の名曲を大きなスピーカーで聴く…そんな至福の時間を過ごそうと来客が増え、全国的なジャズ喫茶ブームにも乗り店名を「ジャズ喫茶コスモス」に変更。流す曲もジャズ中心になった。
90年代始めには与那原の店舗を一時閉め、琉球大学の近くに構えた新店舗を主に営業していた。そこはジャズ研究会メンバーの交流の場だった。
「一杯のコーヒーでみんな何時間も店にいるので、もうかる商売ではない。でも自分がジャズが好きだから、仕方ないさ」と笑う西銘さん。体調を崩し休業した事もあったが、親交の深い沖縄を代表するジャズ・プレイヤー國仲勝男氏との再会がきっかけで、2000年に再オープン。気軽にジャズが聴ける店として40年余り親しまれてきた。だが昨年末、西銘さんは閉店を考えた。間もなく70歳を迎える年齢から一人で店を続けるのは難しい、というのが理由だった。
出会いが財産
そんな西銘さんの元に助っ人が登場した。小中学校の同級生、屋比久英夫(やびく・ひでお)さんだ。
「私はオーディオマニア。子どものころ西銘家のステレオでいい音楽を聴かせてもらい、こういう機械を組み立てたいと憧れていたんですよ」
電機メーカー退職後にカフェを開いた屋比久さんだったがそのカフェを人に任せる事になり、そのタイミングで「ソフト(音源)もハード(ステレオ設備)もそろっているのに閉店はもったいない。一緒に店を守ろう」と西銘さんに持ちかけた。
「彼は音楽、私は飲食と役割分担でき順調です。お酒を出し始めて同級生も来るようになり、音楽好きも集まってワイワイやっています」とほほ笑む屋比久さんは、マスターとしてアットホームな雰囲気を作っている。西銘さんと店を切り盛りする日々が楽しいそうだ。
ジャズに包まれたこの空間を愛し、優しく佇む西銘さんは「みんなで音楽を聴くのが幸せ。40数年つらいと思った事はなく、好きな事を続けているだけ。人とのつながりが財産です」としみじみ語る。
西銘さんの豊富な音楽知識と温かな人柄に触れたくて、店を訪ねる常連客は多いがジャズ初心者も大歓迎。大型スピーカーで聴くジャズの楽曲の素晴らしさを体感してほしい。
(饒波貴子)
ドリンク400円〜(アルコールもあり)、おつまみ300円〜、チャージなし
与那原町字与那原2998-180
☎098-945-2066
営業時間=19時〜24時
定休日=月曜日 駐車場=あり