「表紙」2019年12月05日[No.1805]号
ペダルをこげば、人も街も変わっていく
北谷町美浜の「SHUHARI BIKE WORKS」(守破離(しゅはり)・バイク・ワークス)は、単なる移動手段や競技用とは異なる、ライフスタイルとしての自転車を提案している店舗だ。「乗り物が変われば、見えてくる景色や、経験するできごと、人との接し方、街の在り方まで変わってくる」と考えるのは、オーナーの堤秀明さん。自転車のある生活の魅力とその可能性について聞いた。
北谷町美浜のデポアイランド周辺を歩いていると、カフェの一角で自転車を組み立てている男性に出会った。男性は工具を手にしているが、ベレー帽にジーンズ、サンダルというカジュアルな出で立ち。周囲に置かれた、自転車のパーツ類も独特の存在感と光沢を放つ。両方ともおしゃれな雰囲気のカフェと妙にマッチしている。
作業を行っていたのは堤さん。自転車の販売とカスタムメイド、レンタルバイクを手がける「SHUHARI BIKE WORKS」のオーナーだ。
街にもっと自転車を
BMXにシングルスピードバイク、クロスバイク、タンデムバイク、子ども用のバランスバイクなど、「SHUHARI」では多種多様な自転車を提供している。種類・メーカーごとの個性はあるが、どの自転車も街中での使用に適しており、さまざまな服装になじませることができる。堤さんが手がけるのはスタイリッシュで、普段使いできる自転車だ。
堤さんは大阪出身。自身もかなりの自転車マニアで、学生時代から、自転車のカスタムメイドや修理を手がけるお店で経験を積んでいたという。沖縄を初めて訪れたのは約5年前。県内各地を自転車で回っている中で、北谷の街並みと自転車の相性がとても良いことに気付いたそうだ。
「北谷は道が平坦で、面白いお店もぎゅっとコンパクトにまとまっている。きれいなビーチもある。自転車乗りにとって完璧な街の一つ。この街にもっと自転車が走ってほしい!」
堤さんのこの感覚に共鳴したのは、デポアイランド内のカフェ「ZHYVAGO COFFEE WORKS」(ジバゴコーヒーワークス)のオーナー、飯星健太郎さんだった。米国のオレゴン州ポートランドのカフェから影響を受けていた飯星さん。コーヒーにこだわった店が多く、自転車に優しい都市計画がされたポートランドの雰囲気を再現したいという考えと、堤さんの思いがリンクし、カフェに併設された自転車専門店「SHUHARI」は誕生することになった。
目指したのは、自転車とコーヒーをより所に人々が交流する場所だ。
「アップサイクル」な価値観
移動の足であるだけでなく、フィットネス効果、渋滞の緩和、自然環境への負担の少なさが期待できる自転車は、生活や街をサスティナブル(持続可能)なものにすると、堤さんは確信している。
「『アップサイクル』っていう考え方が好きで」と話しながら堤さんが見せたのは、自身が着用しているズボンのベルト。何とパンクした自転車のタイヤチューブを再利用しているという。「アップサイクル」とは、技術を加えることで、使えなくなったものを、再度使用可能にするという考え方。生活の中に新しい豊かさを見つける価値観でもある。「自転車は捨てるところが無いんですよ」と堤さんは笑顔で胸を張る。
ベルトの他、店に展示してある「トールバイク」は、使用不能になった2台の自転車のフレームを合体したもの。シートの位置が高く、少し不安定そうな見た目だが、乗り心地は良いのだとか。店の看板も、使えなくなった自転車のホイールにロゴマークを施して作った。
来年には、現在建設中のホテル「ベッセルホテルリゾート」に、規模を拡大して店舗を移転するという「SHUHARI」。 「ZHYVAGO COFFEE」の焙煎(ばいせん)所やアパレルショップなども併設される予定だ。堤さんの提案する自転車を中心にしたライフスタイルがゆっくりと、だが着実に広がっている。
(津波典泰)
「SHUHARI」と「ZHYVAGO COFFEE」のメンバーが行った「珈琲バイシクルツアー」の様子 撮影・若松一郎(I&W film works)
SHUHARI BIKE WORKS
北谷町美浜9-21 ベッセルホテル別館1F (vongo & anchor内)
☎︎ 098-988-5757
Instagram @shuhari_bike_works
レンタルサイクル:1時間1,000円〜 (税込)