「表紙」2020年07月09日[No.1835]号
年月を経た木の魅力
テクノ音楽が響く工房で、家具や雑貨を製作する島袋勝ツ也さんは、廃材を活用した作品を作ることでも知られている。廃材と出合いその魅力に引き込まれてからは、時間を見つけては家具や雑貨作りに励む。廃材の傷や汚れも個性だ。不要になった木材が新しいアイテムによみがえっている。
今年創立12年を迎えた「b12」。工房内には形や色が違う木材を組み合わせたベンチやさびた草刈り機の刃でできた時計など、廃材を活用した家具や雑貨が並ぶ。工房主宰の木工職人・島袋さんは注文家具に取り組む傍ら、廃材を集めてはその個性を生かした作品を作っている。使い古された木材が島袋さんの手で細部へのこだわりにあふれた味わいのある作品へと変身する。
サラリーマンから木工の道へ
もともとはサラリーマンだった島袋さん。東京の大学を卒業後、CD・DVDのレンタル・販売などを手掛ける大手企業に就職。全国の店舗の仕入れ構成などを考えるマーチャンダイザーとして、ゲームソフトを担当していたが、2002年に退職。ゲーム機にインターネットの機能が搭載され始め、時代の変化を感じたことがきっかけだった。
「ダウンロードで買うことができるようになれば、商品をパッケージの形で売る時代は終わる。書いていた推薦コメントなどもネットでみんなが発信するようになり、自分の仕事は要らなくなると思った」と振り返る。
故郷の沖縄に戻ると、北谷にある沖縄職業能力開発促進センター(ポリテクセンター沖縄)の住宅リフォームCAD科に入所。授業の一環でノミやカンナを扱った時、木工の面白さに魅了された。本格的に木工を学ぶため、南風原の県工芸指導所(現県工芸振興センター)で技術を習得、木工職人としての道を歩み始めた。
2008年に工房を設立し、無垢(むく)の木材などで製品を作っていた時、再び転機が訪れた。フォークリフトで荷物を運ぶ時に使われる木製パレットの廃材があり、引き取り手を探しているという情報を聞いた。カンナで削ってきれいにし、椅子でも作ればコスト削減になるという軽い気持ちで入手した。
「いざ解体したら格好良かった。釘(くぎ)の抜けた穴や銀に日焼けした部分、それだけでも物語性を感じた。人間が年を取ったり、着込んだジーンズが破れていったりするような『ビンテージ』の魅力があった」と話す。「無垢材から同じものを何度も作ることはできたけど、それは僕がやらなくてもいいのではないか、という気持ちになっていた時期。たまたま廃材と出合い、これだと思った」。すぐに作品作りにのめり込んだ。
自らも廃材を減らす工夫
家具から小物まで思いついたものを形にしているという島袋さん。自ら制作するときも、捨てるものを減らす工夫をしながらものづくりに取り組んでいる。使い古した木材は形、色もバラバラだが、材質の個性を生かし、組み合わせて作っている。一つ一つの作品について説明を聞くと、島袋さんのマニアックな遊び心や細かなこだわりがちりばめられていて面白い。
廃棄物を有効に使い、デザイン性のある作品を生み出しているものの、「アートやエコと捉えられたりする。でもそんなつもりは全くない」。枠に縛られず、自然体でものづくりに励んでいるようだ。
島袋さんは今、新築アパート向けの作り付け家具の制作に追われている真っ最中。終わったら廃材を利用した作品作りに取り掛かりたいという。現在は主にイベントなどで展示・販売を行っているが、今後は「ストック棚を作り、工房内に展示スペースを設けたい」と意気込む。再生を遂げた作品が工房の棚に並ぶ日を楽しみに待ちたい。
(坂本永通子)
b12【ホームページ】 https://40-296.com/