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[No.1879]

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「表紙」2021年05月13日[No.1879]号

やんばるの自然の素晴らしさ伝えたい
ネイチャーガイド 上開地 広美(かみがいち ひろみ)さん

自然と暮らしの共存を目指して

やんばるの自然の魅力に引かれ、観察や調査をしながら、その普及と保全活動を仕事に選んだ上開地広美さん。約10年の間にさまざまな場所の森に入り、たくさんの生き物や植物に出合ってきた。「どんなに貴重な地域なのかを広め、みんなで守っていきたい」と語る彼女に、自然に触れたエピソードや愛鳥週間(5/10〜16)にちなみ「やんばるの野鳥」のことなどを聞いた。

 「やんばる初出勤の日、キラキラした朝の景色に包まれる中で、ノグチゲラのドラミングが鳴り響いていたんです」と忘れられない情景を語る上開地さん。ノグチゲラが彼女の移住を歓迎したかのようだ(ドラミング=キツツキなどが幹を素早くつつき音を出す事)。

 千葉県出身の上開地さんは物心がつく前から、生き物に関心があったという。

 「親戚の話から、記憶にない子どもの時から生き物好きだった事が分かりました。実家がある市街地では出合えない生き物も見たくなり、高校では山岳部に入部したんです」

 高校卒業後は東京農業大学の野生動物学研究室に所属。そして山階鳥類研究所、国立科学博物館研究分館などでも生物の研究や調査に携わってきた。

 「研究者や仲間から、やんばるは面白いと聞いていました。そして環境省の施設で働くアクティブ・レンジャーという職種に興味を持った2011年、やんばるでの人員募集を見付けて応募したんです」憧れのやんばるで自然保護官の補佐を目指し見事採用となり、「環境省やんばる野生生物保護センター ウフギー自然館」に勤務。ノグチゲラ他の希少動物の保全に努め、標本管理なども担当したという。また普及活動として「お散歩観察会」を企画し実施した。

 「やんばるの森は常緑ですが、生き物たちは季節ごとに移り変わります。毎月同じ場所で動植物を観察し、違いがあると知ってもらいたくて観察会を開いていました」

 上開地さんがガイドを務めたこの観察会は人気で、20数名の枠はすぐに満員。常連参加者が増えていったそうだ。

 「参加を重ね森についての理解が進み、常連さんが初心者に情報を教えるなど交流が深まり、私が理想としていた観察会の形になっていきました」

 観察会を続けて約6年、ウフギー自然館での勤務が10年になったころ、一歩進んだ活動に取り組みたいと決意した上開地さんは退職を決めた。

宝を次世代につなぐ

 「地域のマチヤグヮー(よろず屋)」をモットーにしているEGHは、2019年に仲本いつ美さんが立ち上げた会社。「その土地固有の庭」を意味する社名で、「H」は出身地の辺土名、健康(ヘルス)といったキーワードを示している。

 「大学卒業後に国頭村役場に勤め地元の良さに改めて気付き、人口減少などの深刻な問題も知りました。やんばるの住民と観光客のつなぎ役になり、得られる恩恵を還元しながら問題を解決する組織を目指しています」と仲本さん。

 住民の暮らし文化や人情を「地域の宝」と考える仲本さんはその宝の伝承を業務の柱にし、思いを共有し実践できるスタッフをそろえている。上開地さんとは前職時代に業務で知り合い意気投合。新たな挑戦を目指す時期も重なり、上開地さんがEGHに入社して「やんばる体験ツアー」ガイドを担うことに。また会社として宿泊施設「奥やんばるの里」の指定管理者を務めるなど、業務が広がってきたそうだ。

 「豊かな自然に寄り添うやんばるの文化を、次世代につなぐことが目標です」と仲本さん。地元愛があふれている。

どこにもない奇跡の森 

 5月は森の野鳥たちの子育てシーズン。体験ツアーではヤンバルクイナ、ホントウアカヒゲの鳴き声が聞けたり姿が見られる日があるとのこと。

 「鳥をはじめ動物が活発な時期で、路上に出ることが多く事故も多い。やんばるの道は森の中を通っているので、動物が生きる場所を車が走ります。ドライブ中は注意していただきたいです」と上開地さん。運転やゴミ捨てのマナーなどの配慮が希少な動植物の保護につながっていくのだ。

 世界自然遺産登録目前とされ「奇跡の森」と呼ばれる、やんばるの大自然。他のどこにもない生態系という誇りを持ち、私たち一人一人が守っていく意識を高めることが必要だ。

(饒波貴子)



<インフォメーション>
上開地さんがやんばるを案内するツアーは、参加費1人5000円から。
(所要時間3時間程度・2人以上で催行)詳細はお問い合わせください。
Endemic Garden H
国頭村謝敷161・旧共同売店内
https://endemicgarden.jp

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ネイチャーガイド 上開地 広美(かみがいち ひろみ)さん
女性スタッフが運営する「エンデミック・ガーデン・エイチ」はやんばる三村(国頭村・大宜味村・東村)の旅行業務やガイド他、幅広い内容の業務を請け負う株式会社。 環境部長を務める上開地広美さんはやんばるに住んで10年が過ぎ、環境省施設で働いていたキャリアとつながりを生かしながら「やんばるの素晴しさを知り守っていこう」と呼び掛けている=国頭村・やんばる国立公園で撮影 写真・村山 望
ネイチャーガイド 上開地 広美(かみがいち ひろみ)さん
ネイチャーガイドとして、やんばるの生物を解説しながら案内する上開地さん
ネイチャーガイド 上開地 広美(かみがいち ひろみ)さん
「Endemic Garden H」(通称:EGH)代表取締役の仲本いつ美さん
ネイチャーガイド 上開地 広美(かみがいち ひろみ)さん
ガイド中に観察できる機会が多い「ホントウアカヒゲ」(国指定天然記念物)
ネイチャーガイド 上開地 広美(かみがいち ひろみ)さん
全室BBQテラス&キッチン完備
宿泊施設「奥やんばるの里」
https://okuyanbarunosato.net
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