「表紙」2021年08月12日[No.1892]号
温故知新、高度な技が光る位牌(いはい)製造メーカー
開業から150年以上の歴史を持つ照屋漆器店。現在に至るまで沖縄伝統の仏壇・仏具、そして位牌の製造を続けている。これから仏壇を設置する世代のライフスタイルにも寄り添いながら、先祖を敬う心と伝統文化を受け継ぐ方法を模索する七代目・照屋慎さんに話を聞いた。
那覇市樋川の照屋漆器店。店舗や事務所を備えたビルの一角には、位牌作りに関わる職人の作業スペースがある。
この日は、位牌への文字書き作業が行われていた。まず、漆(うるし)とカシュー塗料で文字を書き入れ、そこに金箔(きんぱく)を載せていく工程。職人歴20年の長間静香さんが、慣れた手つきで作業をこなしていく。単純にも見えるが、文字を書いた直後や乾きすぎた状態だと金箔はきれいに定着しない。絶妙なタイミングを見極めることが求められるそうだ(表紙面参照)。
位牌は祖先崇拝の中心
「私たちは位牌の製造メーカーです」
七代目であり、営業統括部長を務める照屋慎さんは、自らの家業をそう表す。位牌(トートーメー)こそが沖縄の祖先崇拝の中心であると考えているからだ。
本土の仏壇の場合、最上段に供えるのはその家が属する寺の本尊であるのに対し、沖縄の仏壇は祖先の名前が書かれた位牌である。同じ仏壇でも、手を合わせる対象が違うのだ。名前を書き連ねるという性質上、沖縄の位牌は本土のものよりも大きくなる。
照屋漆器店には位牌作りに関わる職人が13人所属している。職人たちは、螺鈿(らでん)や堆錦(ついきん)など工程ごとに分業している。その理由は、位牌製造の難しさだ。
器や重箱など民芸品として流通する漆器と比べ、位牌の形状はかなり複雑である。漆塗りや装飾をする面も多い。製造には高度な専門技術を持つ職人たちの存在が不可欠だと照屋さんは話す。ちなみに、社内で製作している位牌のデザインは五代目、林一(りんいち)さんの時代に完成されたもの。「他のものが簡単になってもこれだけは変えられない」とこだわっている。
仏具店もっと身近に
たくさんのお供え物やお中元を並べることのできる沖縄式の仏壇。位牌と同様こちらも本土のものより大型である。しかし、最近はアパート住まいにも対応した、小型の「モダン仏壇」というタイプを選ぶ人も増えている。小型の仏壇は全国的にシェアを広げているが、位牌は沖縄式のものを置く、という方法を照屋漆器店では提案している。実際に「トートーメーだけはうちなーの物を」と購入する客も少なくないようだ。
照屋さんは今後、若い世代に位牌や伝統行事についてわかりやすく発信していきたい、と考えている。
先月は「仏壇仏具や沖縄の行事等についての県民意識調査」を行い、調査結果を公開した他、人気漫画とコラボし、旧盆の行事をわかりやすく紹介している。
「仏壇屋って普段入らないじゃないですか。でも、もっと一般の人たちと距離感を縮めるような店の作り方、商品のあり方を考えないといけない。何も変えなければこの業界も終わっていくんで」
そう話す照屋さん。教育分野でも伝統文化を伝える役割を自身や会社が担っていければ、と意欲をのぞかせた。 今年の旧盆は20日(金)〜22日(日)。位牌や仏壇には先祖たちの記録はもちろん、沖縄のことを学べるヒントがつまっている。
(津波 典泰)
照屋漆器店
那覇市樋川1-26-9
☎︎ 098-834-5727
ホームページ
http://www.teruyashikki.com/