「表紙」2022年12月22日[No.1963]号
先人の技を受け継ぎ日々精進
今帰仁村謝名で、1975年から手作業の加工黒糖作りを続ける「合資会社 共栄社」。加工黒糖は、県産の サトウキビを原料とする粗糖・黒糖・糖蜜を、独自の配合でブレンドして生み出される。製造時期が冬場12 月~4月ごろに限られる純黒糖に対し、1年中製造が可能だ。味わいを細かく調整したり、さまざまなアレ ンジを施したりできるのもメリットで、共栄社ではその強みを生かし、ショウガや塩、ナッツなどと組み合 わせた約30種の商品を製造している。手作りを続けることで磨かれた熟練の技は、同社ならではの新商品 「ブエナ・スエルテ」の開発にも生かされ、今年の優良県産品NEXT部門で最優秀賞の受賞につながった。
共栄社の加工黒糖作りは、 早朝6時から始まる。
まずは原料となる粗糖・黒 糖・糖蜜を独自の配合で溶解 し、ろ過。300メッシュの網で 不純物を取り除き、撹拌(かく はん)しながら炊き上げていく。
現在では蒸気釜が主流だ が、共栄社ではレンガ造りの釜 を使い、鍋を直火炊きする先 代からのスタイルが特徴だ。
加工黒糖のもとになる液体 を煮詰めていくと、結晶化の準 備が整う。しかし、煮詰めすぎ ると結晶が粗く口どけが悪く なり、逆に煮詰め足りないと結 晶ができない。火加減の見極め が、職人の腕の見せ所だ。加熱 にはバーナーを使うため、自身 の目と経験だけが頼りとな る。
準備が整ったら、台の上に液 体を流し込み、コテで延ばして カットしていく。加工黒糖は冷 えると同時に固まっていく。刻 一刻と状態が変化するため、こ こでもタイミングの見極めが難 しい。
アナログの強み
黒糖の香りと湯気が立ち込める加工場では、すべての工程 が職人技だ。
「県産サトウキビ由来の原 材料を使っていますが、産地や 品種によっても出来栄えが変 わります」と共栄社代表社員 の與那勝治さん。各工程のベス トなタイミングは季節によって も左右されるため、慣れるには 少なくとも数年の時間が必要 だという。四半世紀にわたり加 工黒糖を作り続けるベテラン の與那さんですら「今でも失敗 することがありますよ」と苦 笑いする。
失敗した時は、なぜうまくい かなかったのか検討し、原因を 突き止める。與那さんも、かつて はベテランのアドバイスを仰ぎ ながら腕を磨いていったそうだ。
「すべて目で確認するしかな いアナログの世界ですが、アナ ログだからこその強みがあり ます」と與那さんは力を込め る。
技術を生かした新商品も
現在、共栄社はショウガや ナッツ、塩などを組み合わせた 約 30 種に及ぶ豊富な商品を製 造している。かつては3、4種類のみを作っていたが、大型の 加工工場による大量生産に対 抗するため、珍しい商品作りを 始めたという。
その中で、與那さんはこれま でにない、なめらかな口溶けの 加工黒糖作りに挑戦した。「マ グロのトロのように、口溶けの いいものはおいしい。黒糖のト ロを作ろう」。與那さんは技術 と経験を生かし、技術的に困 難なソフトタイプの加工黒糖 を作り上げた。さまざまに試 行錯誤ができる手作りの加工 場だからこそ、独自の口溶けを 実現できたと胸を張る。
このソフト黒糖が、今年の優 良県産品NEXT部門で最優 秀賞に選ばれたチョコレート 黒糖菓子「ブエナ・スエルテ」誕 生につながっていく。
ブエナ・スエルテは、ソフト黒 糖にカカオマスをコーティング した新商品。 今月 10 日から製 造販売を本格的にスタートさ せている。
「スペイン語で『幸運をあな たへ』という商品名の通り、食べ た瞬間、口の中でホロッと崩れて、心がホッと幸せになる風味 です」と営業本部長の浦良作 さん。共栄社のソフト黒糖なら ではのすっきりした味わいと口 溶けが、カカオマスの風味と マッチし、高級感のある独自の 風味が生まれた。「今帰仁発 の、沖縄の定番菓子になってく れたらありがたい」と與那さん は期待を込める。
「加工黒糖は純黒糖と比べ て偽物扱いされることもあり ますが、これも沖縄の伝統的な 技術。みんなで切磋琢磨して、 沖縄の黒糖はすべて上等、と広 めていきたい」(與那さん) デジタル社会の現在でも、ア ナログな職人技の世界を極め ることが未来へつながる―。そ んなことがうれしく思え、勇気 づけられた。
(日平 勝也)
合資会社 共栄社
今帰仁村謝名227‐1
☎0980‐56‐2812
https://nakijin-kokutouya.co.jp/
①粗糖・黒糖・糖蜜をブレンド した液体を撹拌(かくはん)し ながら煮詰め、結晶化を促す
④手作業で一つ一つ加工黒糖の かけらを切り離していく