「表紙」2023年05月18日[No.1984]号
植物染毛料をゼロから開発
県産ヘナと琉球藍による人と環境にやさしい植物染毛料を販売する株式会社レイ企画。きっかけは、16年 前にあるイベントで譲り受けた1本のヘナの苗木だった。苗木を栽培することから始めて、県内の研究機関 と協力しながら研究を重ね、商品化を実現。同時に、ヘナと共に、髪を黒く染めるためには欠かせない琉球 藍の加工技術も確立し、2015年に特許を登録した。さらに今年、これまで廃棄されていた琉球藍の茎を活用 した線香を開発し、注目を集めている。
レイ企画の代表取締役・中 村はる美さん( 61 )は、明るくパ ワフルな女性だ。社長業で全国 を飛び回りつつ、那覇市天久の 事務所2階の直営サロンで髪 染めの施術を行い、1階の工場 に立つこともある。
ヘナは糸満市、琉球藍は本部 町で栽培されたもの。それらを 工場で染毛料へと加工している が、洗浄、異物の除去から始ま る製造工程は、大変な手間が かかる。だが中村さんは「ユー ザーさんに信用してもらうた めには、手抜きはしない。手抜 きするなら、ものづくりはやら ないほうがいい」と断言する。
きっかけは1本の苗木
「 16 年前、国産のヘナはなく 手探り状態でのスタートでし た」。店舗プロデュースや企画、 セラピストの仕事で活躍してい た中村さん。「そのころ、白髪が 生え始めて…。でも私は化学 染毛剤のアレルギーで、頭皮を 痛めてしまった。当時お手伝い していた健康サロンでも同様の 方が多く、頭皮のケアをしてあ げたいと思ったんです」
中村さんは沖縄モズクの成分に注目し、頭皮用のローショ ンを開発。ローションをアピー ルするため出店した展示会で、 ある来場者から「ヘナって知っ てる?」と1本の苗木をもら い、翌年、糸満市の畑で栽培を 開始した。
ヘナはインド原産。高温を好 むため、県外では商品化できる ほどの葉を付けないが、糸満市 の畑ではよく育った。栽培を広 めようと県内各地の農家に苗 木を譲渡したところ、北部の 土壌では生育が悪く、中城村 以南が適地だということも分 かった。
「沖縄でヘナが育つなら、安 心な髪染めを提供できるかも しれない」。中村さんは、沖縄工 業高等専門学校でヘナの色素 含有量の試験を依頼。後に栽 培を定着させつつ、「オーガニッ ク琉球ヘナ」の製造体制を確立 した。
琉球藍の線香も開発
化学物質に頼らずに髪を黒 く染めるには、ヘナだけでなく 藍も必要となる。ヘナはオレン ジ色に染まるが、藍と混ぜると 化学反応で黒く染まる。
藍には種類があるが、中村さ んは、琉球藍にこだわった。「よ く使われているインド藍(ナン バンコマツナギ)は、アトピーの 方には使えない。全然性質が違 うんです」。藍農家にかけあっ て理解を得、原料を確保した。
商品化には琉球藍の加工の 難しさがハードルとなった。単 純に粉末にするだけでは、髪に 染色せず、劣化も早い。中村さ んは県工業技術センターの協 力を得て研究を開始。研究員 と共に試行錯誤を繰り返し、 生葉から色素と酵素を別々に 加工し、粉末の鮮度を保つ独 自の工程を確立。2015年に 特許を登録した。その後、琉球 大学に成分分析等を依頼し、 更に上質な琉球藍白髪染めを 完成させた。
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ゼロからヘナと琉球藍に向か い合ってきた中村さん。今年、 その仕上げともいえる商品を 発売した。これまで廃棄されて きた琉球藍の茎を使った線 香「真髄(FUNISHIN)」だ。
琉球藍には独特のとがった 植物染毛料をゼロから開発 香りがあるが、淡路島の老舗 メーカーが白檀と組み合わせ ることを提案。互いの魅力を引 き出す香りのマリアージュが生 まれた。
「コンセプトの『真髄』は、 思ったことを最後まで貫くと いうこと」。茎まで有効に活用 することで、琉球藍を沖縄の 財産として後世にまで残した いという思いを貫いた自身の生 きざまが商品名に込められて いる、と話す。
「最初はどうなるか分から ず、無我夢中で作ってきました が、ヘナと琉球藍を通して多く の出会いがあり、今は私が作る 商品を待ってくださっている方 がいる。すごい体験をさせてい ただいていると思いますね」と 中村さんは笑顔を浮かべた。
(日平 勝也)
株式会社レイ企画
那覇市天久1068-7
☎098(988)0463
写真・村山 望