「表紙」2023年07月20日[No.1993]号
自然の恵みいっぱいの塩
昔ながらの風情が色濃く残るうるま市浜比嘉島。石垣に囲まれた集落を抜けた島の先に、製塩 業を行う高江洲製塩所がある。風の力を使う製塩方法「流下式塩田」を利用し、100%天然の海水 塩「浜比嘉塩」の製造を行うほか、塩づくり体験を通じて自然の大切さを伝えている。高江洲製塩 所の社長であり塩職人の高江洲優(まさる)さん(51)に取材し、塩づくりへの思いを聞いた。
「沖縄の方言で塩を『マー ス』。ご飯を食べるときはちゃ んと『いただきマース』って言っ てくださいね!」
照りつける太陽の下、ときお り塩にちなんだ「塩ギャグ」を 交えながら製塩方法を説明す るのは、高江洲製塩所の社長 兼塩職人の高江洲優さん。かつ て県外資本の製塩所の社員と して現在の場所で働いていた が、後に同社が事業縮小で撤 退。「浜比嘉島の自然を生かし た手作りの塩を作りたい」とい う思いから、閉鎖された工場を 再利用し2009年に高江洲 製塩所を立ち上げた。
「ここは民家や畑がなく生 活排水や農薬の心配がない。太 平洋からの潮の流れがあるの で塩を作るのに適した環境な んです」と高江洲さんは誇らし げに語った。
自然と共生した製法
高江洲製塩所では「流下式 塩田」と呼ばれる、昭和初期か ら中期にかけて四国や兵庫県 で行われていた製塩方法を採 用している。満潮時に取水した 海水をポンプで汲み上げ、竹枝 で組み上げた枝条架(しじょう か)に流す。海水が竹枝から滴 り落ちるときに風の力で水分 を飛ばし、残った海水を再びポ ンプで汲み上げる。この循環を 繰り返すことで塩分濃度の濃 い海水ができあがるのだという。
竹枝は、県外では孟宗竹(モ ウソウチク)という竹を使って いるのだが、沖縄にはその竹が 少ないため、およそ1000本 もの竹ぼうきを代用。県外では 高さ6㍍ほどある枝条架だが、 台風などを考慮し3・5㍍仕 様にするなど、高江洲製塩所で は本来の流下式塩田を沖縄式 のものに復元しているという。
湿度が高い夏場は2、3日。 空気が乾燥している冬は1日 かけて循環を繰り返し、4倍か ら5倍まで濃度を上げ、濃く なった海水を工場の釜で焚き 上げて製塩している。
「塩ってただ海水を焚いたら できるんじゃないの? って思わ れがちですが、昔から日本では 塩分濃度を高めてから焚き上 げる、というやりかたが主流な んです。同じ量の海水を焚く時 に使用するボイラーの燃料は 同じなので、どれだけ濃縮する かで塩の価値は変わってきま す」と高江洲さんは語る。
自然の力を使っての製塩方 法ゆえに天敵は雨。雨の予報が あると作業を止める。もしも 自然の恵みいっぱいの塩 循環している途中で雨が降っ た場合は、初めから作り直しだ という。
「台風が一番大変ですね。竹 枝を全部外したり、飛んできた 葉っぱの掃除もあります。でも 自然の力でやっている塩作り なので『しおがない(しょうがな い)』です。自然とうまく付き 合っていきながら、感謝しなが らやっています」
塩作りの楽しさ伝えたい
流下式塩田でできた濃縮海 水は、室温 50 度に迫る工房内 の平釜を使い、低温でじっくり 焚き上げることで「粗塩」に なってくるという。
粗塩には、ミネラルが多く含 まれる「にがり」が絶妙なバラ ンスで残る。
「にがりを切りすぎてしまっ たら、ナトリウムが多く含まれ た辛い塩になっちゃうんです よ。逆に残し過ぎたら今度は苦 味が出てくるのでその間をとる んです」と高江洲さんは言う。
そうして出来上がった「浜比 嘉塩」は、湿気に強く固まりに くい。粒が大きく、採れたての 海藻のような風味とまろやか な酸味が特徴的だ。
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高江洲製塩所では、製塩方 法を学ぶ無料見学をはじめ、 濃縮海水をじっくり焚いてオ リジナルの塩を作る塩作り体 験にも力を入れている。
「塩を知ることが塩選びにつ ながります。『この塩おいしー お(塩)』『塩つくり体験たのしー お(塩)』と言ってもらえると喜 びもひとしおです」と高江洲さ んはにこやかに話す。
高江洲製塩所の敷地内には 天然海岸があり、塩作りに使 用される海や風、太陽を直に 感じることができる。浜比嘉 島の豊かな恵みから生まれた 塩をぜひ一度味わってほしい。
(元澤 一樹)
高江洲製塩所
うるま市勝連比嘉1597
☎098-977-8667 駐車場あり
見学無料 塩作り体験受付中(要予約)
写真・村山 望