沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1998]

  • (金)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2023年08月24日[No.1998]号

伝統と誇り 銀に刻む

円寿 與那覇 沙寿香さん

普段使いできる伝統工芸目指して

 無縁仏をあの世に送り、豊作を願う伝統行事「ヌーバレー」の文化が残る南城市知念知名。海 に近いこの場所に工房を構える円寿(えんじゅ)は、沖縄の伝統工芸品である金細工(クガニ ジェーク)の制作・販売を行っている。オーナーの與那覇沙寿香(よなは・さずか)さんは、琉球王 朝時代の婚礼指輪「房指輪(ふさゆびわ)」を中心に、沖縄の文化や自然をモチーフにした装身 具やジュエリーの制作に携わる。

 南城市出身の與那覇さんが 金細工と出合ったのは岡山の 大学に通っていた頃、授業を通 じて沖縄のことを調べている 中で房指輪の存在を知ったの だという。

 「『沖縄にこんな良いものが あったなんて!』と思いました」 卒業後は東京の出版社などに 就職。「いずれは沖縄のものづ くりに携わるような仕事がし たい」という思いから 27 歳で沖 縄に戻り、金細工作家の又吉 健次郎さんや県の工芸振興セ ンターなどで金細工を学んだ。

 円寿を立ち上げたのは20 17年。名前の由来は、婚礼指 輪である房指輪のおめでたい イメージと與那覇さん自身の 名前にも使われている「寿」の 字の共通点から「幸せな縁でつ ながるように」という願いを込 めた。

伝統とモダンの調和

 琉球王朝時代の貴族の間で 婚礼指輪として用いられてい た房指輪。チョウや魚、ザクロ などの縁起物がかたどられて おり、7つのモチーフ一つ一つに 意味がある。

 房指輪の多くは沖縄戦で消 失してしまっており、現存する 房指輪のほとんどが戦後発見 された持ち主不明のものだと いう。その中でも與那覇さんが 房指輪を作る上で参考にして いるのが、那覇市歴史博物館に 収蔵されている𤘩宮城(ぐしみ やぎ)家の房指輪だ。

 「王朝時代から続いていた名 家である𤘩宮城家さんの子孫 の方が寄贈したものです。当時 の方たちが実際に持っていた房 指輪って、文献的にも非常に珍 しいんですよ」と與那覇さん。

 平打ちのリングに三つ巴(み つどもえ)などの模様が打ち込 まれているのが特徴的な𤘩宮 城家の房指輪。円寿の房指輪 も𤘩宮城家のデザインを参考 にしつつ、全体のサイズを小さ くするなど、伝統とモダンの調 和を意識している。

 「せっかく沖縄に根付いてい 普段使いできる伝統工芸目指して るのだから『特別なときに着け るもの』って言われると悔しん です。普段使いもしてほしい」

 房指輪に付いている7つのモ チーフを一つなぎにした「果報 (カフー)ピアス」や、モチーフの 付け替え可能な「吉祥ピアス」 などのオリジナル商品の制作 にも意欲的に取り組んでいる。

歴史の担い手として

 與那覇さんの生まれ育った 知念知名では旧盆の翌日、豊 作を願い、無縁仏をあの世へ送 り返す「ヌーバレー」という伝 統行事が行われる。與那覇さ んも子どもの頃から踊りなど に参加していたそうで「私の中 のアイデンティティーの一つで す」と笑みをこぼす。

 今でも南城市の町や知名崎 海岸を散歩しているという與 那覇さん。身近にある月桃やユ ウナの花をモチーフにした装 飾品や琉球舞踊で用いられる 花笠など、円寿のジュエリーに は沖縄の伝統だけでなく、与那 覇さんの原風景も詰まってい る。

 「私自身はつないでいく一人 というか。有名にもなりたい し、房指輪も有名になってほし いですけど、私を経由してこの 先沖縄にこういったものがあっ たっていうことが残ってくれた らいいな、って思います」と、與 那覇さんは話してくれた。

 今後の目標は「新しい工房を 兼ねたショップの開店」だと意 気込む。

 沖縄の伝統・文化を次世代 につなぐ金細工・円寿。今日も 與那覇さんの手によって、新し い軌跡が刻まれていく。

(元澤 一樹)



円寿 與那覇 沙寿香さん

円寿
☎090-6899-6566
「しびらんか やちむんと雑貨」(南城市)「CORALIA ロワジールホテル那覇店」(那覇市)で一部商品を委託販 売中。
房指輪は完全受注生産のため、注文・問い合わせは電話もしくはインスタグラムの DMから
@enju2017metalsmith/



このエントリーをはてなブックマークに追加



円寿 與那覇 沙寿香さん
琉球王朝時代から伝わる 婚礼指輪の一つ「房指輪 (ふさゆびわ)」。金細工(ク ガニジェーク)工房「円寿」 オーナーの與那覇沙寿香 (よなは・さずか)さんは、沖 縄の伝統的な縁起物であ る房指輪を、普段使いしや すいデザインに落とし込ん だオリジナルジュエリーを 制作している=円寿 工房
写真・村山 望
円寿 與那覇 沙寿香さん
①リュウキュウコノハズクモチーフのピアス②房指輪モチーフの「吉祥ピアス」 ③琉球舞踊の花笠をあしらった「花笠リング」④月桃モチーフの「月桃リング」
円寿 與那覇 沙寿香さん
円寿の房指輪。写真は、うるま市にある「芭蕉布こもれび工房」の芭蕉 布で製作したオリジナルポーチと房指輪のセット商品
円寿 與那覇 沙寿香さん
房指輪についている7つの モチーフを一つなぎにした 「果報ブローチ」(着用は 「果報ピアス」)
円寿 與那覇 沙寿香さん
房指輪作りの作業風景。専用の 作業台の上、2㌢ほどの銀の板に 「タガネ」と呼ばれる鉄鋼と金づ ちを用いて模様を打ち込んでいく
>> [No.1998]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>