「表紙」2024年02月01日[No.2021]号
潜り漁に密着取材
海人の仕事と聞いたら何を思い浮かべるだろう。夜間に行われる「潜り漁」もそ の一つ。海中を探索し、水中銃などの道具で魚介類を仕留める。名護市の屋我 地漁港を拠点にする金城迅一さん(33)の漁に同行。良好な成果を記録すること ができた。漁の様子と海の魅力を紹介する。
昨年 12 月の夕暮れ時、名 護市済井出の屋我地漁港か ら金城さんの船に乗船した。 新月直後のこの日は「島ダコ を中心に狙う」と言う。慣れ た手つきで船を操舵した金城 さん。GPSと陸上の地形を 確認しつつ大宜味村沖のポイ ントに到着した。
島ダコ漁の技
投錨後、ウエットスーツを 身に着け、空気ボンベ、ダイビ ングライト、水中銃など数々 の道具を確認したらいよいよ 潜水だ。一晩で空気ボンベ4本 (この日の水深だと計約4時 間分)を使用する。
約一時間後、落ち着いた様 子で船に戻ってきた金城さ ん。身につけた網には全長 60 ㌢以上、良型の島ダコを何匹 も抱えていた。全体重をかけ、 なんとか船上に引き上げる。 島ダコだけでなく、アカジン (スジアラ)やマクブ(シロクラ ベラ)、アーガイ(ヒブダイ)な ども混じっている。メインの魚 種以外も発見した場合は捕 るそうだ。ただし、魚類はセ リでの価格が変動するので、 低価格が予想される場合は 狙わないという。
船上で一息ついた金城さん に、どうやってタコを探すの か? と聞くと「これは直感な んだよね」と答えた。
岩やサンゴに隠れ、擬態す るタコは発見することが難し い。大型のものは力も強く、 スムーズに捕獲するのは至難 の技。捕まえても柔らかい体 と腕を駆使し、手元から逃げ 出すこともある。暗い海で一 人、並々ならぬ集中力と判断 力を発揮しているようだ。
海人が見る光景
小学生時代、将来の夢を 聞かれれば「海人」と胸を張 って答えていた金城さん。海 人の父・清人さんの仕事を 見て育った。漁業就業したの は8年前。見習いとして清人 さんの元で働いた後、船を購 入し独立した。
所属する羽地漁業協同組 合の中ではまだまだ若手であ るそうで、先達から学ぶこと も欠かさない。最近は、同じ く屋我地島在住の山里将成 さんと漁に出たり、情報交換 している。「海は漁業者にとっ ての畑」と語る山里さんは 50 代。近海の魚介類、海藻を熟 知し、自身の親世代の漁も記 憶している。海や沿岸の環境 の変化について、知見を伝え ることにも熱心だ。
「やりがいは何よりもある よな」
漁港での談笑中、金城さん と山里さんはそう言って目を 輝かせた。海中で遭遇した島 ダコとガーラ(ロウニンアジな ど)のにらみ合い、逃してしま ったマクブ、コンクリートブロッ クを抱えて泳ぐ感覚だという シャコガイ、まれに出合うクジ ラ…。話は尽きない。
漁場では基本的に単独行 動だが、海人たちには緩やか な仲間意識があることも教 えてくれた。船の故障時や、 サメの情報共有などさまざま な場面で助け合うという。
多種多様な海産物が水揚 げされる沖縄県。海産物を味 わうことで、食卓は豊かにな り、地域の海人を応援でき る。今夜は一品、県産の海の 幸を選んでみてはいかがだろ うか。
(津波 典泰)
写真・津波典泰