「島ネタCHOSA班」2013年01月10日[No.1449]号
沖縄ではイラブー(ウミヘビ)を食べる習慣があるようですが、私は一度も食べたことがありません。今年はヘビ年なので挑戦してみようと思うのですが、どんな効能があるのでしょうか?(宜野湾市 I・K)
イラブーの効能はスゴイ?
沖縄で蛇といえばハブとイラブー。しかし、実際に食べる機会は少ないですね。ということで、県内のイラブー事情を調査してみました。
神秘的な生物
というわけでヘビに詳しい沖縄市照屋の「高田爬虫類研究所沖縄分室」室長の大谷勉さんに聞いてみました。「古くからヘビは信仰の対象になってきたという説がありますよ」と大谷さん。手足がないのに自在に動いたり、自分の頭よりも大きなものを飲み込んだり、脱皮してきれいに生まれ変わる(ように見えたのでしょう)ヘビの存在が、身近な自然の中で一目置くべき存在と思われ畏れられていたようです。そこへ稲作が広まり、米を食い荒らすネズミを捕食してくれるヘビを特別な存在とあがめるようになったのではないかといわれているそうです。
イラブーは「エラブウミヘビ(永良部海蛇)/学名Laticauda Semifasciata コブラ科エラブウミヘビ属に分類され、東南アジアや奄美大島、沖縄などの暖かい海に生息。エラブトキシンという神経毒を持つが、おとなしく口が小さいため、人に危害を加えることはほとんどない」とあります。海中生物でありながら肺呼吸をし、陸上で産卵します。毒性はハブの70倍! なにやら神秘的な生物ですね。
まず訪れたのは牧志公設市場。店頭につるされたものなど、イラブーの薫製が並んでいます。昆布などの干物を扱っている玉城鰹節店の店主・玉城敬也さん(57)に話を聞きました。
イラブーの薫製の仕入れ先は? 「久高島と八重山です。久高島は琉球王朝時代に王府からイラブーの採取権を得ていましたが、石垣島でもイラブーは捕れます。八重山産もタコなどの薫製の技術を生かし、よく乾燥していて味も良いですよ」
どんな時に食べるのですか? 「医食同源の伝統料理として料理店や家庭で作る人が主です」。疲労回復や滋養強壮にいいと、定期的に購入する人が多いそうです。
イラブーの成分検査表を見せてもらうと、体内では生成することができない18種類のアミノ酸やドコサヘキサエン酸(DHA)などを豊富に含んでいます。アスパラギン酸も多く含むので疲労回復にも効果があるなど、科学的根拠が実証されています。
「不老不死の薬として秦の始皇帝が東の海に探し求めた」という伝説が中国に残っていることにも納得。恐るべしイラブーパワー。イラブーの薫製を500年以上作り続けている久高島の話を聞きたくなり、実際に行ってみました。
神様の贈り物
やって来ました久高島。イラブー漁をしている福地洋子さん(74)に話を聞きました。
昔、イラブー漁は琉球王府から久高ノロに与えられた権限でした。通年行事で国王に献上。中国への交易品として珍重されました。さらに島の村頭2人にこの役職が与えられ、その妻がイラブー漁を担うことが多かったようです。
村頭不在で1年間の空白があった漁を2005年に再開。漁と薫製加工を分担。島人が持ち回りし、漁は女性が担当。旧暦の6月〜12月末まで神事として行うようです。
捕ったイラブーは2カ月ほど餌を与えず、おなかをきれいにしてから久高殿でモクマオウなどを使って薫製にします。乾燥させるほど良品とされ、昔から伝わる秘技で毒消するのだとか! 「万病に効く薬として貴重なイラブーは神様からの贈り物。イラブー洞(ガマ)で感謝しながら素手でひょいと首を持ちあげて捕ります」と福地さん。かまれたりしないか心配ですが、おとなしいので大丈夫だそう。
久高島でのレシピを尋ねたところ、高価なので頻繁に食べないそうですが、よく洗って3日間ことこと炊き、別々に処理したテビチや昆布、大根と炊き合わせるのが主流だそう。この素材の組み合わせも先人の知恵がなせる業なんですって。
早速、イラブ汁ーに挑戦した調査員。かつおだしのうま味を凝縮したような滋味深くまろやかな味。完食後、心地よい眠気に襲われました。不足しているものを補って元気にしてくれる作用があるのかもしれません。琉球料理の偉大さに感服です。