「島ネタCHOSA班」2017年10月26日[No.1696]号
クラシックファンの友人から、八重瀬町に木造の音楽スタジオがあると聞きました。本場ウィーンの音楽家も絶賛しているすごいホールなんだとか。ぜひ調べてください!
(北中城村 キシャバの女さん)
八重瀬町に木造スタジオ!?
ようやく沖縄も秋めいてきましたねぇ。秋といえば芸術の秋。クラシックの音楽スタジオとは、ピッタリな調査依頼です。でも、木造のスタジオって、あまり想像がつきません。これは、見に行ってみるしかないですね!
豊かな響きを追求
というわけで、訪れたのは八重瀬町具志頭。緑に囲まれた閑静な住宅街を進むと、ありましたありました! 壁は木材で覆われ、白く塗られた一軒家。なんだか、ヨーロッパの別荘地のような雰囲気を漂わせています。
スタジオの名は「ティー・トゥッティー」。「こんにちは、レキオですがー」と呼び鈴を鳴らすと、オーナーの田前義徳(たまえ・よしのり)さんが出迎えてくれました。
スタジオのドアを開けると──。広い! そして天井が高い! スタジオというと、こじんまりした部屋をイメージしてしまいますが、面積でいうと約30坪。小さなコンサートホールぐらいの広さがあり、約90人が収容できるとのこと。すごい!
スタジオは幅約9㍍、奥行き約10・8㍍。吹き抜けになった天井の高さは、なんと9㍍。じつはこのスタジオのサイズが、豊かな音の響きにとって、とても重要なのだとか。
素人には少々難しい話なのですが、音の種類には直接音と間接音の2種類があり、壁などから跳ね返ってくる間接音をいかに響かせるかが、音の豊かさの決め手となるそう。8・5㍍よりも狭い空間では、十分な間接音が出せないとのこと。
そういった理論的な裏付けがあって、幅・奥行き・高さがそれぞれ9㍍以上というスタジオのサイズが決められたというわけですね。
そして、心地よい木の香りがふわりと漂うのが印象的。「やはり木造だと音が違いますね。優しい響きがしますよ」と田前さんは頬を緩めます。
ウイーンと同じ音!?
じつは、このスタジオは、田前さんの自宅の一部。
中学時代からブラスバンド部に所属し、バンドを組んで活動するなど、音楽が大好きだったという田前さん。卒業後はFM沖縄(入社当時は極東放送)に所属し、エンジニアとしてスタジオの設計などに関わってきたそうです。
「子育ても終わった55歳の時、これからは好きなことをやりたいと思って退社。長年計画をあたためていたスタジオの建設をスタートしました」。静かな場所を求めて出身地の浦添市から八重瀬町に移り住み、荒れ地同然だった敷地の整備からはじめて、建築を開始。宮崎県から飫肥杉(おびすぎ)という木材を取り寄せ、自前の設計によって、2009年7月、念願のスタジオが完成しました。
録音スタジオとしてCDの制作を行っているほか、ミニコンサートも開催。県内はもちろん、県外、そして海外から演奏者が訪れる機会も多いそうです。
設計にあたって念頭に置いたのは、楽器の持っている音を素直に聴けること。
「ヨーロッパから訪れた演奏者も『ウィーンと同じ音だ』と言いますよ。子どもたちも、スタジオでピアノを弾くと『いつもと音が全然違う』と驚きますね」
田前さんが長年ラジオ局の仕事で培った知識と技術、そして音楽への情熱が、ヨーロッパに勝るとも劣らない立派な音楽スタジオを県内に生み出したのですね。脱帽です!
「今後は、県外や海外からお客さんを招いて、滞在型の音楽祭を開いていければいいですね」と夢を語る田前さん。
田前さんの言葉に、八重瀬町が新たな音楽のまちとして知られる日がくることを願いつつ、帰路についた調査員でした。