「島ネタCHOSA班」2021年05月13日[No.1879]号
中城村の浜漁港にて、再生エネルギーを利用したミーバイの養殖をしているという報道を見ました。画期的なことだと思うので、どんな場所なのか詳しく知りたいです。魚好きとしては養殖したミーバイの品質や味も気になりまーす(笑)。
(那覇市 アクアマン2号)
水産業の未来をナイスに!?
わーい! 調査員もお魚大好きです(笑)。依頼者さんの言う施設とは、ずばり「一般社団法人中城村養殖技術研究センター(NAICe)」のことですね。「ナイス」っていう通称が親しみやすい!
昨年10月に開所した施設は、佐敷中城漁業協同組合、琉球大学関係者に加え2社の民間企業によって運営されています。今回は養殖研究の中心を担う、琉球大学理学部教授の竹村明洋さんに、施設について教えていただきました。
水産業の課題を解決
ナイスは浜漁港の敷地内にありますが、「完全陸上養殖」の施設。海から海水を取らなくても魚を育てることができます。建物に入ると竹村さんが「まずは」と大きく育ったヤイトハタ(方言名・アーラミーバイ)を見せてくれました。「この大きさだと10人分くらいの刺身がとれますよ」とのこと。
完全陸上養殖の施設は県内に数カ所ありますが、研究施設であるナイスがすごいのは、魚のエサのコスト「ゼロ」を目指していること。県内の企業から食品の製造過程で出てくる廃棄物を提供してもらい、それを再利用しています。
エサと並び、養殖業者の大きな負担となるのが施設運営のための電気代。この問題には、太陽光パネルと蓄電池の導入で解決を図っています。養殖にかかるコスト削減を徹底することと、魚の商品価値を上げることで、「儲かる」産業になれば水産業の担い手不足の解決も見込まれます。
加えて、施設でのヤイトハタの育成には竹村さんの研究成果も応用されています。ヤイトハタの脳が反応する青い光と、塩分濃度の低い海水で育てることで、成長スピードを早めています。
安定した環境で養殖したヤイトハタは、品質も良く、環境への負荷も少ないので、消費者に選ばれる「ブランド魚」になると考える竹村さん。実際に、ナイスで育てた魚をシンガポールまで生きたまま空輸、消費してもらうという試験も行っています。
目標は農業との連動
「SDGsを考えた養殖場をパッケージ化して、それを世界に持っていきたいと考えています」
竹村さんは、将来の展望をそう語ります。エサなどのコストを下げ、電力も自前で生産できるようにするナイスの設備は、世界中で持続的に運用できることを目指しています。今後は、そのシステムを新しい水産業の方法として輸出していきたいのだとか。AIやIoT(モノのインターネット化)分野の技術も導入すれば、砂漠や山の上にある養殖場を沖縄から管理することも夢ではないそうです。
持続可能な養殖技術の輸出、というだけで調査員はおどろきだったのですが、ナイスの研究にはさらに次の段階があります。それは、養殖場を畑や畜舎に隣接して設置する、という構想。それぞれの施設から出る廃棄物をエサや肥料という形で利用し「循環型の社会を実現する」というのが、竹村さんたちの研究の到達点なのです。
最新技術を駆使することで、将来もおいしいイマイユ(鮮魚)が食べられるようになる。自然も人も大事にする循環型の方法がこれからの水産業のスタンダードになっていくのだと実感しました。