「島ネタCHOSA班」2023年01月12日[No.1966]号
本屋さんで、沖縄の甲虫だけを集めたという図鑑、『沖縄甲虫図鑑』が並んでい るのを発見しました。ぱらぱらめくってみると、名前も姿も知らなかった虫がたくさ ん! こんなにたくさんの虫を記録して本にまとめたのはどんな人? 図鑑がどう やって作られたのかも知りたいです。
(那覇市 たむてぃむ)
約1700種と虫屋の熱意を一冊に!『 沖縄甲虫図鑑』
昆虫の中でも、クワガタム シやテントウムシなどに代表 される甲虫の仲間。依頼のあ った『沖縄甲虫図鑑』は昨年発 刊されたばかりの本で、なん と県内に生息する甲虫1700 余種を紹介しています! 沖縄 発の甲虫だけを扱った図鑑は 本邦初ですよ。 今回は編著者として中心的 な役割を担った、松村雅史さ んにお話を聞くことができま した。
全国の甲虫研究者が協力
「私が初めて沖縄に来たのは 1972年の3月。パスポート を持って昆虫採集にやってき ました。沖縄本土復帰 50 年の 昨年は、私の個人的な節目で もあり、そんな年に図鑑を刊行 できたことはよろこびです」
そう話す松村さんは大阪府 出身の 72 歳。 10 代のころから、 昆虫の観察や採集を趣味にす る人、いわゆる”虫屋“ として 活動しています。現役時代は 製薬会社に勤務し、日本各地 に転勤。赴任した土地ごとの 虫たちとも触れ合ってきまし た。定年後は沖縄に移住して いますが、その理由は、沖縄の 魅力的な昆虫たちもさること ながら、奥さんが県出身であ ることも大きいようです。
『沖縄甲虫図鑑』には松村さ んを含め、6人の著者がいます。 甲虫には約100もの「科」が あり、6人で担当分野を持っ ています。クワガタムシ科や コガネムシ科などは楠井善久 さん、テントウムシ科とハム シ科は小浜継雄さん、ホタル 科とオオメボタル科は佐々木 健志さん、ミズスマシ科やゲ ンゴロウ科などは青柳克さん、 ゾウムシ科やチョッキリゾウ ムシ科などは吉武啓さん。
松村さんは、もともとの専 門はカミキリムシ科ですが、 それ以外にもハネカクシ科や ハナノミ科など、一般の人で は姿もなかなか想像できない 種類の掲載も担当しています。
共著者の中で、虫の分類を 専門とするのはゾウムシ担当 の吉武さんだけです。図鑑の 編集には、分類学に基づいた 作業が必 要になり ますが、共 著者の誰 も専門と していな い甲虫に ついては、 松村さん が学生時 代や社会 人時代に知り合った、全国の 虫屋さんたちに協力を仰いだ そう。松村さんは「昆虫の分類 学には各地で研究を重ねるア マチュアの協力がとても大事 で、環境省の野生生物レッド データの作成にも協力してい るのです」と熱く語ります。
甲虫と生物多様性
ところで、どうして今回の 図鑑は甲虫に注目したんでし ょう? 聞いてみました。
「生物多様性を語るにおい て、昆虫の存在は欠かせませ ん。なぜかというと、地球上の 生物種のうち、 60 ㌫は昆虫な んですよ。そして昆虫のうち の40㌫が甲虫。ほとんどが小 さな種類ですが、とても繁栄 しているんです」
いまだに毎年のように新種 の甲虫が発見されている沖縄 県内。豊かな自然は、肉眼では 見えにくい小さな世界にも広 がっているんだ、ということ を松村さんは多くの人に伝え たいのです。
『沖縄甲虫図鑑』のこだわり の一つに、ほぼ実物大の甲虫 のシルエット、または写真を 掲載している、という点があ ります。見つけた虫を調べる のにも役立ちますし、1ペー ジごとに読み進めれば、「こん な虫がいるんだ!」という発 見も楽しめます。
自然科学分野でノーベル賞 を受賞した日本人の多くが、 昆虫少年であったことはよく 知られています。子どもたち の自然科学への入り口として 役立つ一冊ですよ。
沖縄時事出版 3080円
問い合わせ:098-854-1622(沖縄時事出版)