「島ネタCHOSA班」2023年12月07日[No.2013]号
クリスマスの時期に見られる虫がいるという噂を聞きました。「クリスマスビートル」 と呼ばれているとかいないとか。いったいどんな虫なのでしょうか?
( 名護市 黒猫ぺー)
時季限定! “クリスマスビートル”ってどんな虫?
クリスマスの頃に出てくる 虫ということですが、どうや ら…、本当にいるようですよ! 少し調べてみると、その虫 は和名「ケブカコフキコガネ」 という甲虫だとがわかりまし た。「毛深」の名前通り、胸が ふさふさの体毛に覆われ、オ スは大きな触角が特徴です。
さらに詳しく知ろうと、調 査員は与那原町在住の〝虫 屋〞(昆虫を愛好し、その観 察、採集、研究などを趣味と する人)、松村雅史さんを頼 ることにしました。
松村さんは、2022年に 沖縄県内の甲虫約1700 種類をまとめ発行された『沖 縄甲虫図鑑』の編著者でもあ ります。
1年置きに発生
「これが私が採集したケブ カコフキコガネのオス。採集日 はクリスマスイブですね」 訪ねてきた調査員に、標本 を見せてくれた松村さん。添 えられたラベルの日付は「 12 月 24 日」です。
夜行性で、竹の仲間、リュ ウキュウチクの群落周辺で見 つかるというこの甲虫。成虫 が多く発生する〝表年〞と姿 をほとんど見かけない〝裏年〞 が交互にあるのだとか。
「発生するのは(西暦)偶 数年の 12 月中旬から奇数年 の1月初めまで。この約1カ 月しか現れないんです」
そう話す松村さん。前回の 発生は、2 0 2 2 年の 12 月 中旬〜2023年1月初め だったので、今年は残念なが ら裏年。全くいないわけでは ありませんが、探すのは難し いとのこと。クリスマス前後の 短い期間、それも2年に1回 しか見られない のですね。
松村さんをは じめ、甲虫を専 門とする虫屋さ んたちは、表年 のクリスマスシー ズンの夜間、こ の虫を探して県内各地を探 索します。彼らの間でケブカ コフキコガネのことを「クリス マスビートル」と親しみを込 めて呼ぶそうですよ。
謎の生態に迫る
オスは明かりに飛んでくる ので、林縁部の街灯周辺でも 見つかるほか、ライトトラップ でも採集できるそう。一方、メ スは長い間見つかっておらず、 発見されたのは2008年 と比較的最近。リュウキュウ チク群落からあまり動かない ために、人目に触れなかった ようです。その発見も専門家 ではなく、当時琉球大学生だ った太田悠造さん、恩田翔太 さんの功績です。
ケブカコフキコガネは、まだ まだ分からないことばかり。 「オスの大きな房状の触角は メスのフェロモンを感じ取るた め、または夜間飛翔の空間認 識に使われているのでは」「メ スが不活発なのは低い気温の 中で産卵のためのエネルギー の損失を抑えているのでは」。 などの推察が松村さんたちの 観察から得られていますが、 科学的な裏付けには達してい ないそう。
ケブカコフキコガネに限ら ず、甲虫の種類数は全生物の 約四分の一にも及び、そのほ とんどの種の生態は解明され ていません。謎の多い生き物 について少しでも知りたいとい う探究心が、虫屋さんたちの 活動の原動力になっているよ うです。クリスマスビートルは もちろん、虫屋さんの活動に も興味が湧いてしまった調査 員なのでした。何かに夢中に なって過ごすクリスマスという のも、きっとかけがえのない 時間なのでしょうね。