「表紙」2011年08月04日[No.1375]号
「おはようございます、陽明高校から来ました。今日も一日よろしくお願いします」。大きな声で、お年寄りに話し掛ける生徒たち。一人ひとりの目線に腰を落とし、手を握りながら、時には背にそっと手を添えてコミュニケーションをはかる。県内9つの施設で行われている、県立陽明高校介護福祉科3年生の施設実習。笑顔で入所者と触れ合い、気遣う一日が始まった。
相手の心に寄り添う
同校では、2年生は9月~11月、3年生は6月と9月・10月に施設実習の日を設け、朝から夕方まで過ごす。食事、入浴、トイレなど、自立度に個人差があるお年寄りや体の不自由な方の日常生活の介助を学ぶ。
「初めは接し方が分からなくて怒られてしまって…」。
ある実習の朝、お年寄りに「あなたは話し方や接し方が暗い」と言われた。
「かなり落ち込みました。でも、私は話しやすい人にしか接してなかったんだな、と気づかされて」。 夕方、意を決してもう一度話し掛けた。「そしたら、さっきは怒ってしまってごめんねー、頑張ってねー、と言ってくれて」。常に考え、解決策を模索する。
現場で大切にしている事は?と水を向けると「話や行動を否定しないこと。例えば、予定外で外に行きたいと言う方がいてもダメ、と言わない。ゆっくり話し掛けて、気を紛らわせて落ち着いてもらえるようにします」。「でも、まだまだです、失敗や反省は日々数知れず」と表情を引き締めながらも、「信頼」「共感」「受容」というキーワードが口を出る。
福祉を目指す動機もさまざまだ。「ある日病院で見掛けた老老介護の夫婦が忘れられない。人の役に立つ仕事に就きたい」と、真剣なまなざしで語る男子生徒。「おばあちゃん子だからお年寄りが大好き。看護の道も考えたけど、介護職はお年寄りのとても近くで関われるから」と、素直な気持ちを表す女子生徒。福祉に携わっているからだろう優しさが、言葉ににじみ出る。
「本当に頑張っていますよ。彼らの初々しさ、素直さに学ぶところも多く、刺激を受けます」
と職員が話せば、担当教諭は「地域で受け入れてくれる場所があるからこその実習です」と感謝の言葉を口にする。周りの多くの大人が一緒になって、彼らの成長を見守っている。
☆
授業では、生徒同士おむつ交換の練習をするなど”介護を受ける立場“も体験する。理論はもちろん、心に寄り添う方法を体でおぼえていく。「お年寄りは爪が厚くなっているので痛くないように靴下をはかせる、皮膚が弱いので体を拭く時気をつける」。実習で得たおのおのの経験も共有する。
レクリエーションの時間。座ったままでもできる体操で体を上下左右に動かし、手作りのカードゲームで楽しませ、全員で八重山の古謡・安里屋ゆんたを歌う。緊張で顔を真っ赤にしながら奮闘する。
少子・高齢化で、担い手の育成に危機感がつのる福祉分野。そんな日本の将来に明るい光が差すように思える光景だった。
編集・島知子/写真・島袋常貴
浦添市。昭和53年に創立された前身の県立大平高校から平成7年に現在の学校名に変更。生徒数693人(男子315人・女子378人)。介護福祉科、総合学科の2科。東日本大震災後、義援金を募るチャリティーイベントで「陽明高校手話ソング」を披露、会場は感動に包まれた。