「表紙」2012年01月05日[No.1397]号
ビニールハウスの中は、紫色のかれんな花とつやつやと輝く実を着けた苗が一面に広がっている。県外では夏野菜のイメージが強いナスは、沖縄では冬から秋が収穫期。ナス作りを始めて2年目。金城智之さん(30)は、ほぼ毎日畑に出てナスと向き合い、試行錯誤の日々だ。「先輩から教えてもらった“農業は子育てだよ”という言葉を大事にしています」と語る金城さんに夢を聞いた。
愛情、手間かけスクスクと
シトシトと2週間以上も小雨が続く曇天の中、畑にうかがった。約182平方メートル・4棟のビニールハウスを管理する金城さんに、ことしの出来を聞くと、「日照不足ですね」と厳しい表情になる。
「太陽がないと花が着かない。花がないと当然、収量が少なくなります。多湿ですから、病気や虫にもいつも以上に細心の注意を払わないと」と話す。
例えば、実が小さいうちについた針先ほどの傷でも、成長につれ全体に広がってしまうとCランク。葉などで実がすれて表面に傷ができてもCランクだ。うねの間を行き来しながら、受粉のためのホルモン処理をしたり、追肥をしたり、病害虫駆除を行ったり。毎日毎日が繰り返しの作業だ。
「天気とはけんかできないから、僕たちがそれに合わせて対応していく。一つひとつ経験です」
自然を相手にする厳しい世界。だからこそ、収穫の喜びは大きい。
「ピーク時には、5キロの箱を30~40箱出します。いえいえ、ベテラン農家さんに比べたら、まだまだ全然少ない方ですよ。でも、昨年よりは良くできたかな」
収穫したナスは、金城さん自身でていねいに洗い、きれいにふき上げて箱詰めしていく。まるで愛しいわが子を送り出すかのようだ。自身も一児の親。ナス作りは子育てのようですか?
「小さいうちにたくさん愛情と手間を掛けなさい、そうすれば曲がる子はいないよー。実をつけることは、子どもからの親孝行さーって先輩から教わって。そうだな、その通りだなって」
と、優しい父親の顔になる。
勤め人から一転、農業で生計を立てると決意した20代。
「通勤していた生活と一変して、ダラダラ過ごさなくなりました。時間の大切さが身に染みて分かるようになりましたし、失敗も成功も自分に返ってくる」
そこに可能性を感じ、ナス作りに惹かれた。そして今、昨年よりは今年、そして来年と、一歩一歩前に進む手応えを感じている。
「目標はたくさんあります。まずは良いナス、おいしいナスを作り続けること。そして、畑の規模を大きくしたい」
帰り際、「お土産に持って行ってください」と手渡されたナスは、誇らしげにピカピカと輝いていた。金城さんの愛情がぎっしり詰まった重さを感じた。
島知子/写真・島袋常貴
焼きナスナスとベーコンのトマトソースパスタギョーザの皮のミニピザ
「ほぼ毎日ですからね、焼きナスとか天ぷらとか飽きのこない定番料理が多いですよ」と、智之さんのお母さん。直火で香ばしく焼いた焼きナスは、驚くほどジューシー。シンプルな料理だからこそ、素材の味、香りを力強く感じます。ギョーザの皮にナスとツナ、トマトソースを乗せたかわいらしいピザと、たっぷりナスを使ったパスタは、智之さんの奥さまのアイデア料理。採れたてのナスは、ソースに負けない食感と味わいです。
きんじょうともゆき 1981年那覇市生まれ。豊見城高校卒業後、配送会社に就職したが、退職後に農業を始めた父を追って農家へ転身。2年前、小禄でブランド化を進めるナス作りを始めた。4歳のお嬢さんも畑に来ることが楽しみで、「将来農業したいと娘が言ったら応援します」と笑顔で話す。