「表紙」2012年04月19日[No.1412]号
独特な形の葉と茎にびっしりと氷の結晶をまとったような「アイスプラント」。南アフリカ原産のハマミズナ科で、シャキシャキ・プチプチの食感と塩味が特徴の新顔植物だ。その可能性に着目し、独学で栽培に取り組んで2年目の金城司さんは、「周りにアイスプラントを育てている人がいないから全てが初めて。一つ一つの経験を積み重ねて、現場で勉強です。それが楽しいから続けているんですよ」と、笑顔で語る。若い感性でチャレンジする金城さんは、多くの食卓にアイスプラントが並ぶ日を夢見ている。
海の恵みを農業へ
工業大学を卒業後、エンジニアとして鹿児島で就職。その後、妻の実家であるコンビニエンスストアの店長として現場を切り盛りするなど、農業とは無縁だった。菊栽培を手掛ける父と兄から「一緒にやろう」と言われ、初めて土に触れる生活が始まる。
まずは理論やノウハウを取得しようと、農業後継者育成事業でみっちりと研修に励んだ。その一環として視察で訪れた佐賀県で、アイスプラントと出合う。
「アイスプラントを育てるためには、定期的に塩水を与えます。佐賀県は、国内ではアイスプラントの一大生産地なんですけど、わざわざ塩を水に溶かして使っていたんです。それを聞いて、宜野座には目の前にあんなにきれいな海があるじゃないか、それを強みとして生かせるんじゃないかと考えました」
アイスプラントを栽培する上で最も重要なキーワードが「塩」。塩のミネラル分を、葉や茎などの内側に蓄える性質があり、それが名前の由来である氷の結晶のようなつぶつぶになる。口に入れると、しっかりとした塩味がする。
「天然の海水を使えば、よりミネラル分が含まれていると思うし、アイスプラントにとって塩のクオリティーは大事。コストの面でも合理性があります」。
昨年初めて本格的に栽培を始め、初収穫・初出荷に成功した。
「やはり、耐塩性であることが大きいんです。海水を掛けるため、病害虫に悩まされることは少ない。万が一発生したらその鉢だけ廃棄すれば良いので、全体がだめになることもないというポット栽培の強みもあります。まったくの無農薬栽培なんですよ」
栽培自体は、そんなに苦労をした意識はないと語る金城さんだが、いざ出荷してみると新たな課題が生まれた。アイスプラントは、県内でも大手スーパーなどには徐々に並ぶようになってはきたものの、まだまだ認知度が低い。新顔ゆえに、なかなか手に取ってもらえなかったのだ。
「作って、出荷して、それで終わりではないんだなって。こんなにおいしいアイスプラントをたくさんの人に食べてもらいたい、いや、食べていただかないといけないんだと思いました」
地元の直売所・みらいぎのざや村内の健康施設などでの販路を開拓。産業まつりなどのイベントでも率先して店頭に立ち、試食会を繰り返した。
「最初は”何これ?“という感じのお客さんも、実際食べると
”もう1つ、もう1つ“って言ってくださって。少しずつファンが増えているのがうれしい」
手に取りやすいようパッケージを工夫するなど、試行錯誤を繰り返す。
さらなる目標は、安定供給だ。
「地元のレストランやホテルからもオファーがあるんですけど、今の量では対応できません。取引先に迷惑を掛けないためにも、収量を増やすことと出荷期間の延長が課題ですね」
しっかりと将来を見据えつつ、表情を引き締める。アイスプラントに”一目惚れ“した時の感動が、金城さんの原動力になっている。
島 知子/写真・島袋常貴
きんじょう つかさ 1979年具志川市(現うるま市)生まれ。県立中部工業高校(現美来工科高校)、第一工業大学を経て自動車整備士として就職。4年後、妻子と共に帰省し、農業の道へ。農業後継者育成事業の視察で訪れた佐賀県でアイスプラントと出合う。周囲に経験者がいない中、ネットや専門誌で猛勉強し、初年度から出荷にこぎつけた。栽培面積を拡大し、出荷期間を長くすることでアイスプラントを安定供給することが目標だ。
アイスプラントのイタリアンカラーサラダ
アイスプラントのスクランブルエッグ
独特の食感なので、生で食べるのがおすすめ。しっかりした塩味なのでそのままでも、また、ぽん酢など酸味のあるドレッシングも合います。加熱するとトロッとするので、天ぷらなら揚げたてを召し上がれ。ベーコンとスクランブルエッグを作り、最後にアイスプラントを加えて余熱で仕上げたひと皿は、シャキシャキ感も残るアイデア料理です。