「表紙」2012年08月23日[No.1430]号
料理の道 究めたい
好きなことを仕事にしたい―。那覇市西のロワジールホテル&スパタワー那覇の宴会調理課で洋食シェフとして働く金城幸乃さん(29)。高校中退後、やりたいことが見つからないまま過ごしたが、23歳で一念発起。好きな料理を極めようと、同ホテルの門をたたいた。まだまだ男社会が色濃く残る厳しい世界だが、職場の理解と実家の協力を得て、1児を育てながら腕を磨いている。「フレンチは見た目もきれいで、おいしく、幸せな気分にしてくれます」と語る金城さん。全身から好きな仕事ができる喜びが伝わってくる。
一念発起し腕を磨く
小柄でかわいらしい金城さん。その細い腕からは大きなフライパンを振る姿は想像できない。
幼少から台所でお母さんのお手伝いをすることが好きだった。小学校高学年からは卵焼きや焼き飯などを作るようになった。「お母さんは毎日、料理を作ってくれました。でも、あまり得意ではなかったんですよ。だから自分が食べたいものを作るようになったんです」と苦笑い。
県立真和志高校に進学したが、美容師になるために一年で中退。しかし、美容師の勉強もせず、遊び歩いた。スーパーのレジやウエートレスのアルバイトをしながら約7年を過ごした。
「このままではいけない」。23歳の頃、進むべき道を考えた。何が好きか自身に問いかけると、料理にたどり着いた。
ハローワークでロワジールホテルのシェフの求人があることを知り、面接へ。「日本人ならまずは和食」と、和食を希望したが定員がいっぱい。洋食に入った。
しかし、周囲は調理師専門学校を卒業した人ばかり。しかも女性は金城さんを含めて2人だけ。「男だらけで、場違いだと思いました」
3年間の実務経験があれば、筆記試験だけで調理師免許が取得できることから、まずは3年、頑張ることを決めた。
専門的な知識も経験もなく、ゼロからのスタート。「料理長自ら二人羽織のようにして、包丁の使い方から教えてもらいました」。魚のさばき方や肉の処理など基本的なことから学んだ。仕事が終わった後は、余った食材をもらって練習。先輩たちがマンツーマンで指導してくれた。
一方、たくさん怒鳴られた。「料理は目から入る。この盛り付けは見ておいしいか!」と何度も怒鳴られた。「本当に怒るんです。泣いたこともありますよ。でも今は怒られてよかったと思います」。先輩たちの厳しい指導の一つ一つが、金城さんの力になっていった。
そんな中、頑張ったご褒美にと、同ホテル12階のフレンチレストランでフルコースをごちそうになった。盛り付けやソースなど、フランス料理の美しさとおいしさに心引かれた。
一年間の契約社員を経て、正社員になった。その直後、妊娠が判明。彼との関係がうまくいかず、一人で産み育てる決心をした。25歳で清空(せいら)君を出産。産後3カ月で戻るつもりだったが、調理部総料理長の屋比久保さん(47)の勧めで一年間、育児休暇を取得した。「一年間、子どもの成長が見られて良かったです。料理長や同僚には感謝しています」と話す。
現在、実家で両親と暮らす。宴会・婚礼部門担当のため、午前10時頃出勤し、帰宅は午後8時頃。宴会の時間帯によって午後9時を過ぎることもある。朝、清空君を保育園に送ると、両親が迎えてくれる。「両親には本当にお世話になっています」。職場の理解もあり、毎週日曜は休みをもらっている。日曜は清空君と過ごす大切な時間だ。
3年前からメニュー作成も任されるようになった。デザート以外のフルコースを考える。「これもあれもと欲張ったり、バランスがとれていなかったり、一品考えるのに一週間ぐらいかかります」。常にメニューのことが頭にあり、夜、眠れなくなることも。「忙しい時は仕事9、子育て1。子どもに申し訳なく思う時もあります」と、仕事が大好きだからこそ、子育ての悩みは深い。
夢は、同ホテル内のフレンチレストランで働くこと。「ディナータイムなので、もう少し子どもが大きくなってからかな。息子と一緒に食べにも行きたいですね」と笑顔で話す金城さん。20代で芽生えた夢を大切にしながら、一歩、一歩、前へ進む。
豊浜由紀子/写真・桜井哲也
1983年生まれ。那覇市出身。
県立真和志高校を1年で中退。23歳までアルバイトをして過ごす。好きな料理を究めようと、24歳でロワジールホテル&スパタワー那覇に入社。料理の基本をゼロから学んだ。28歳で調理師免許を取得。現在は、宴会調理課で宴会や婚礼などの料理を担当。西洋料理のシェフとして腕を振るう。長男の清空君(3つ)と両親の4人暮らし。仕事と育児に奮闘している。
ランチバイキングからディナーのコース、宴会・婚礼まで、さまざまな料理を作るホテルシェフ。調理師免許を取得し、ホテルの面接試験を受けるのが一般的だが、金城さんのように入社後に免許を取得する人もいる。体で一つ一つの技術を覚えなければならない厳しい世界だ。