「表紙」2012年08月16日[No.1429]号
思い、真っすぐに
キラキラと光る水槽は全部で60漕。その中で生き生きとしている海ブドウは、東京出身の油田友規さん(29歳)が毎日ほとんど休まずに育てている。丁寧に愛情を持って育てること、手間ひまかけて育成することにこだわっている。株式会社日本バイオテックの東京支社から、26歳の時に糸満市の本社に異動。現在は同社の食材事業部マネジャーを務めながら、海ブドウを育てる。海ブドウを販売する側から育成する立場に変わった油田さん。試行錯誤を繰り返し、最高の海ブドウを作ることに全力を注ぐ。
沖縄の景色に魅せられ
株式会社日本バイオテックは、主に海ブドウの養殖を行う。本社の糸満市では養殖、東京支社では営業や商品開発をしている。
油田さんは大学を卒業後、内装関係の仕事に就いた。自分にしかできないものを作りたいという気持ちが強かったのだ。しかし、なぜだか物足りなさを感じていた。そんな時に、同社との出合いがあり、転職を決意。沖縄の海ブドウを最大限に生かすためにはどうしたらいいかを考え、熱中した。
沖縄に来るきっかけとなったのは、養殖を担当していた人の退職だった。熱心な油田さんに白羽に矢が立ち、油田さんも迷うことなく異動を決めた。
沖縄に移住することに全く抵抗はなかったという。その理由は、妻の由希さん(30)が沖縄出身だったことだ。東京支社で出会って結婚をし、積極的で前向きな由希さんと一緒ならと、不安はなかった。
26歳で沖縄へ。心機一転し、すぐに海ブドウの育成に取りかかった。そこで真っ先に驚いたのは、海ブドウの成長の早さだ。
基本的に海ブドウは、苗植えをしてから約20~30日で摘み取り。仮に少しでも失敗した場合、取り返しがつかない。ほとんど修正する時間もなく摘み取りになってしまうため、毎日慎重にチェックしておかなければならない。茎が細すぎてもいけない。丁度いい太さを出すのが難しい。試行錯誤の日々が続いた。
「前もって勉強していたつもりだったんですけど、実際にやってみると『なぜ?』『どうして?』の連続でした。生き物を育てるのって、本当に大変だと実感しました」と語る。
海ブドウは、環境の変化にも敏感だ。台風が多い沖縄、水質や水温が急激に変わることで、海ブドウにも大きな影響が出る。
「天気って、僕の努力は関係ないんですよね。台風だって、来るときは来る。しょうがないなって思うんですけど、本当は、いいとこまできてたのにな…って、悔しくなることもあるんです。そんなこと考えても仕方ないんですけどね」と頭をかきながら苦笑する。
対照的に、やりがいもある。海ブドウは光合成を行う。光の入れ具合によって、細かった茎も太くなったりする。時間との勝負の中、対処法にも早い決断が求められる。
「狙い通りにいくと、よし! って、うれしくなるんです」と無邪気に笑う。
現在は娘の椿ちゃん(3)と3人家族。養殖場の敷地内に家を作っている。社員やパートは合わせて9人。また犬2匹に馬、山羊、鳥なども飼っているので、毎日大にぎわいだそう。近くに海もあり、東京にはなかった風景が、そこにはあった。
「いろいろなことがあって、苦しいなって思うこともあります。でもやっぱり、ここの海はいつ見ても飽きないなぁ~。たくさんの人が支えてくれて、幸せです」と話す。油田さんは現在、妻の由希さんと共に海ブドウを使ったアイデアメニューを模索中。近々カフェをオープンする予定だ。夫婦で手を取り合って、日々の生活を楽しんでいる。
普天間光/写真・桜井哲也
あぶらだ とものり 1982年東京生まれ。
高校を卒業後、慶應義塾大学の総合政策学部に入学。経営学を専攻し、日々勉強に明け暮れていた。大学を卒業すると、内装関係の仕事に就いた。今でも、内装をデザインするのは好きだという。3人きょうだいの末っ子で、子供の頃から興味があるものには触れずにいられなかったそう。現在、たくさんのペットに囲まれているが、「もっと飼いたいんです」と話す。無邪気な笑顔が、幼少期の油田さんを想像させた。
海ブドウそうめん
海ブドウ豆腐
海ブドウのカナッペ
海ブドウそうめんは、さっぱりとしていて夏にピッタリの一品です。海ブドウ豆腐は、バジルとにんにく、オリーブオイル、塩をお好みで混ぜて作ったソースをかけて完成。海ブドウのカナッペは、クラッカーにサーモンとクリームチーズ、そして海ブドウをたっぷり! おつまみにもバッチリです。