「表紙」2012年11月08日[No.1441]号
生活者の目線で
生活の一部として、幅広い客層への対応を求められるコンビニエンスストア。(株)沖縄ファミリーマート商品部商品課の豊里夏代さん(41)は、現在、冷凍食品・アイスクリーム担当として、子どもからお年寄りまで幅広い層に選ばれる商品作りに日々奮闘している。季節によっても売れ行きの違う食品は、店舗の立地条件でも好まれる商品が違い、そのリサーチのため、各店舗を回ったり、緻密なマーケティングの数字を読み込んで開発に反映させる。同社の女性初の正社員として採用されて約16年、客の目線で現場に立ち続ける。
コンビニは時代映す鏡
弁当やおにぎりなどの食品から生活用品まで、多岐にわたるアイテムをそろえたコンビニエンスストア。24時間営業の店舗も多く、地域に明かりを絶やさず、子どもたちを見守る役割も持ち合わせる。
「例えば、住宅地と商業地域では、店舗に並ぶ商品も、役割も違います。お客様のニーズをいち早く読み、いかに展開していくかを日々考えているんですよ」と話す豊里夏代さん。16年前、沖縄ファミリーマートに、女性初の正社員として採用された。
「現在の糸数剛一代表取締役社長が面接の担当でした。『今後は、女性の視点も積極的に取り入れたい』と言われて、緊張したのを覚えています」と、当時を振り返る。接客業を志望したのは、大学で心理学を修めたからだと言う。
「営業に配属されたら、各店舗のスーパーバイザーとして、お客様と店舗スタッフをつなぐ雰囲気作りにかかわることができます。また、商品部ならお客様のニーズをくみ取って、それを形にする。提案型の商品を世に送り出してみたいという夢もありました。お客様の気持ちにいかに寄り添うか、考えるのが心理学に近く、楽しみだったんです」。
新採用で配属された営業部では、フランチャイズ店の店長・スタッフと店舗を訪れる客へ双方向な対応が求められた。多忙だが、充実した日々。そして、27歳の時、同部署の崇さんと結婚。
「結婚を機に、商品部に配属してもらいました。うちの社は、女性のライフサイクルに理解があって、パートさんたちも産休・育休を取れるので、長く勤めている方が多いんです。結婚にあたって不安はありませんでした。でも、最初の妊娠は驚かされたんですよ」。
29歳で、思いがけず、双子を妊娠していることが2カ月を過ぎたころに分かった。
「だから、だいぶ遅れて、慌ててもう一つ母子手帳を取りに行ったんですよ」と、当時を思い出し、くすくすと笑いながら話す。夫の崇さんも、驚き、そして喜んでくれたという。
「初めての子育てが双子でしょう。もう、小さい時は何から何まで平等に、と努めていたんですけど、本人たちにとっては、同級生が家にいるって感覚のようです。夫も、両方の親も、初孫で双子だからと、積極的に育児に参加してくれましたし、二人で遊んでくれるので、逆に楽だったかもしれません」。
1年で職場復帰。店舗会計課を経て配属された商品部で、冷凍食品とアイスクリームの担当を任された。店舗を積極的に回り、地域性や客層を肌で感じ、商品開発に反映させる。営業部との定期的な会議でも、その経験を共有し、びっしりと数字が並んだ資料と首っぴきで議論を交わす。
「1日に60種類くらい試食することもありますよ。もちろん、1口、2口ですけどね。終わりの方は口の中が冷たくなっちゃって大変ですけど、お客様が楽しみに待っていると考えると頑張れます」。
仕事、子育てを語る時、豊里さんの前向きな性格が生き生きと伝わってくる。女性ならではのプレッシャーを力に変え、日々充実しているのだろう。
「コンビニが街に浸透し始めた第一世代が、現在40代〜50代。年齢層が上がってきて、コンビニの役割もものすごい勢いで多機能化している。それをお客様が求めているんです」。
今後も、社会を映す鏡のように進化し続けるであろうコンビニエンスストア。その中で、彼女ならではの「生活者の目線」が、きっと力になるに違いない。
島 知子/写真・照屋 俊
ご両親は鹿児島県出身。那覇中学校、那覇高校卒業後、鹿児島女子大学人間関係学科で心理学を学ぶ。96年、(株)沖縄ファミリーマートに女性初の正社員として入社。営業部内で机を並べていた2歳年上の崇さんと結婚を機に商品部へ。県内そば店とのコラボ商品などを開発。現在は、冷凍食品・冷菓担当。長女華菜さん・次女璃菜さん(共に12歳)は2卵生の双子。長男・一晟さん(9)の5人家族。