「表紙」2012年11月29日[No.1444]号
県外に負けないお茶を
沖縄は日本一早い「一番茶」の生産地として全国的に有名だ。だが、栽培は他県に比べ難しいと金武町で緑茶を生産する與那城武史さん。県外は冬で一度、成長が止まり、春になると一斉に芽吹くのだが、沖縄の温暖な気候が新芽の発芽をバラつかせてしまうのだ。「このバラつきが品質に影響してきます。でも、やり方次第では、県外に負けないものができると信じてますよ。天候も重要ですけど工夫することも大切なんです。無農薬栽培にこだわっているのもその一つです」そう力強く話してくれた。
チャレンジを楽しむ
もともと茶葉生産が家業ではなかったと與那城さん。
「12年前に父が知人から引き継いだんです。未知の世界ですから苦労したようですね」
高校卒業後は親元を離れ、アルバイトで生計を立てていた。しかし、次第に将来に対する迷いが出てきた。そんな時に、知人から静岡にお茶のことが学べる研究所があると勧められる。
「両親を助けることもできるかなって考えました。二人ともそこまでお茶の専門知識があるわけではないし、自分が学ぶことで今より品質を良くすることができるんじゃないかって思ったんです」
自分の力で挑戦してみたかった。そしてそれが両親の力にもなることではないか? そう考えた彼は、静岡へと旅立ち、研修生として2年間みっちりと学んだ。その後27歳で帰郷、真っ先に取り組んだことがある。
「専門用語で『被覆(ひふく)栽培』って呼ぶんですが、茶園を黒い布で覆って、日光をあてないで栽培する方法で、色が鮮やかで渋みの少ない、まろやかなお茶になるといわれているんです」
成果は驚くほどすぐに出た。今年、與那城さんの生産する緑茶「ゆたかみどり」が、県茶生産協議会の主催する新茶品評会で2位を獲得したのだ。渋みが少なくお茶の甘みが強く感じられると評判で、大部分は県外へと出荷されるのだが、県内でもファーマーズマーケットなどで販売されている。「うれしかったです。でも、まだまだ課題は山積みですよ」
最も頭を悩ませているのが収穫時期なのだという。「お茶は、収穫時期と収穫してからのスピードが命。茶葉には摘採期という収穫に適したタイミングがあって、これを逃すと、加工に手間がかかって品質が落ちるんです」
品質向上への壁はまだある。現在、與那城さんの畑にはすべて同じ品種が植えられている。違う品種であれば、品種ごとの摘採期のズレもあるが、それも期待できないのだ。また、収穫のタイミングをそろえたくても彼と両親の3人ではどうしても難しい。ならば一度にすべて刈り取って保管し、それから加工をと思うが、それもダメなのだ。
「保管している間、茶葉が少しずつ発酵してしまうんです。実は、この発酵を進めたものが紅茶なんですよ。緑茶は色と香りも重要で、ほんの少し加工が遅れただけでも影響が大きく出るんです。なるべく早く加工してしまわないと紅茶のような香りが出て緑茶としての価値が低くなってしまうんですよ」
品質を上げるためには収穫時期を合わせたい。だが、合わせると加工までの時間がかかり結果的に品質は落ちる。このジレンマが彼を悩ませているのだ。
「この問題もあって、沖縄は緑茶より紅茶が向いているって言われることが多いんです。でも、被覆で少しなら摘採時期の延長もできますし、新品種の導入も考えています。やるからには挑戦です。そのほうが面白いじゃないですか(笑)」
茶葉生産農家として、挑戦する道を選んだ與那城さん。澄んだ空の下に広がる茶畑で、悩み、楽しみながら今日も緑茶に挑み続けている。
佐野真慈/写真・佐野真慈
高校卒業後、親元を離れアルバイトで生計を立てていたが、22歳で静岡県金谷にある独立行政法人野菜茶葉研究所で茶葉生産の研修生として学ぶことを決意。研修終了後、異業種の経験も必要とインテリアショップに就職。その後27歳で帰郷。学んだ知識を生かし約7000坪の畑で両親と3人で茶葉生産に取り組む。今年行われた県茶生産協議会の主催する新茶品評会で見事2位を受賞した。。
お茶を使ったヘルシーローストポーク&煮豚
たこ糸で形を整えた肩ロースとバラ肉をパックに入れた大さじ2杯程度の緑茶の茶葉と一緒にゆでます。豚の臭みやよけいな油を茶葉が吸収して、肩ロースはそのまま煮豚としてあっさりといただけます。バラ肉は、あら熱が取れた後、すり鉢などで細かくした茶葉と塩こうじをすり込み、半日冷蔵庫でねかしオーブンで軽く焼くだけ。粒マスタードや大根おろしをのせて、野菜と一緒に食べてみてください。