「表紙」2012年12月13日[No.1446]号
支え合いが原動力
「私は将来何をやりたいんだろう…」。そう悩んでいた高校時代の平良ちよのさん(38)。高校卒業後は沖縄情報経理専門学校で経理の勉強をしていた。そんな中、友人の誘いでホテルのアルバイトを始めた。さまざまな経験を積み、客への出会いに心を打たれ、初めて「ホテルで働きたい」という意欲が芽生える。現在、那覇市松川の沖縄都ホテルの運営管理部に所属。同じ職場に勤めていた夫、将司さん(40)と23歳の時に結婚。24歳で長男を出産。3人の子どもに恵まれた。常に笑顔で、自分に正直な性格だ。
周りに育てられて
平良さんの業務は、ホテルのサービスでは欠かせない発注作業。各部署と連携を取り、客の予約状況の確認から食材、備品の管理まで、すべて把握しておかなければいけない。どれだけ優秀なスタッフをそろえても、必要な物がふぞろいであれば十分なサービスを提供することは不可能だ。平良さんはそのことを理解した上で、スタッフが働きやすい状況を作ることに尽力している。
「物をそろえておくことは、お客さまへのサービスの第一歩です。『ありません』では済まされませんし、簡単に変更できるものではありません。私たちの仕事は、お客さまに最高のおもてなしをするためのサポート役として、非常に重要な役割だと認識しています」と強調する。
専門学校を卒業後、20歳で沖縄都ホテルに入社。初めは、コーヒーラウンジへの配属。それから16年がたち、「自分でもこんなに続けられていることにビックリしています」と話す。
平良さんは月に1、2度、朝食のサービススタッフとしても働く。現場の空気を感じながら、じかに客と接することも大切だと考えている。
住まいは沖縄市。普段は5時半に起床。スタッフの中でも遠方からの勤務で、大変に思うこともある。しかし、家族の支えが平良さんの原動力になっている。 現在、夫の将司さんの両親と二世帯で暮らしている。義母の江美子さん(67)は、平良さんの仕事の大変さを考慮し、子育てを率先して手伝ってくれる心強い存在だ。
「正直、しんどいなと思う日もあります。会社に着いても、車の中で『ふー』ってため息をつくこともよくありますね。でも、私だけが大変な思いをしているわけではありません。家族もみんな協力して頑張ってくれています。特に義母には、感謝の気持ちでいっぱいです」と笑顔。
また、共に働く仲間の存在も大きい。出産当時は年齢も若く、仕事と育児を両立するのは容易ではなかった。そのころ、配属はブライダル。やりがいも大きかったが神経を使い、土日は披露宴のため、ほとんどが出勤というハードな毎日だった。
三男の琉夏(るか)君(7)が1歳のころ、急に脱水症状でけいれんを起こし、入院した。わが子が苦しそうにけいれんしているところを見て、気が動転した平良さんは、泣きながら会社へ休暇の電話をかけた。休む理由として琉夏君の症状を伝えなくてはいけなかったが、涙で言葉が出なかった。すると、電話に出た女性スタッフから「こんな時にあなたが泣いてどうするの!」と言われ、ハッとした。
「あの時は本当に驚いてしまって、怖くて仕方ありませんでした。でも子を持つスタッフに言われて、母親として、もっとしっかりしないといけないと思いました」
何事も一人で抱え込んでいた平良さんだったが、この日を境に周りの女性スタッフと相談し合うようになった。アドバイスをもらったり、共感したりすることで悩みが解消されていった。
「最初から、そうしていたら良かったんだって思いましたね。しっかりしようと思って動いていたつもりだったんですけど、一人では何もできないことが分かりました。私はこんなインタビューを受けるようなすごい人ではありません。本当にどこにでもいる普通の人です。周りに支えられて、育てられていると思っています」と話す。
連携を大切にする平良さん。スタッフ同士が信頼し合うことで、より良いサービスを客に提供できると考えている。人のために頑張れる性格は、救われた経験があってこそなのかもしれない。
普天間光/写真・桜井哲也
数学は苦手だったが、何か資格が欲しいと考え、沖縄情報経理専門学校に入学。発注作業をする際、その経験が生きていると話す。夫の将司さんとは、同じホテル業ということもあり、お互いを理解し合えるいい関係だ。長男の優樹君(14)と二男の優弥君(10)、三男の琉夏君は、外食してもおとなしく座っているため、平良さんはとても助かっているそうだ。
発注作業は、内部で行うサービスの全ての状況を把握し、アメニティーグッズや調理器具、食材など、さまざまな業者と取引きをする。自ら現場で確認し、必要なものをそれぞれの部署の担当者と話し合う。より良いものを購入するため、値段や品数を考慮して業者を選定することもある。普段から注意力が必要だ。