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[No.1450]

  • (金)

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「表紙」2013年01月17日[No.1450]号

輝くママ HAPPYライフ 24

輝くママ HAPPYライフ 24(2013年01月17日掲載)

観光施設スタッフ

知念 己さん

多くの笑顔に会いたい

 「このハブは毒を持っています。危険と思ったら私が真っ先に逃げますので、皆さん気を付けてくださいね」。南城市玉城のおきなわワールド文化王国玉泉洞内のハブ博物公園で、軽妙なトークと笑顔でショーを進行する知念己(つちの)さん(28)。ハブやコブラ、ニシキヘビを自在に操り、客を驚かせ、笑わせ、楽しませる。かつての知念さんは、動物が大の苦手の上、人見知りで引っ込み思案だったという。「高校生の時に初めてお客さまの前に立ち、皆さんを笑顔にできる仕事に出合えたことに感謝しています」と振り返る。今後の夢を聞いた。

客の反応が原動力

 きっかけは、高校1年の夏、友人に誘われたおきなわワールド文化王国玉泉洞でのエイサー演舞のアルバイトだった。「南風原高校は、県内唯一の郷土文化コースがあります。周りは経験者が多かったんですが、私は全く未経験。まさか一緒に踊れるとは思いませんでした」。3カ月以内にデビューできなければ、採用も報酬もないという厳しい条件ながら、約2カ月の特訓を経て、年齢も経験もさまざまな約20人の仲間と客の前に立った。

 「それまでは、人前に立つのは苦手でした。でも、お客さまが笑顔になって、励ましてくれて、拍手してくれた。その反応がうれしくて」。20歳で、残波大(うふ)獅子太鼓グループ「舞踊団遊花(あしばな)」にも所属し、ホテルや空港などを回り、数々の出会いを経験した。子ども向けのショーなど、イベントの司会もこなすなど、活動の場は広がっていった。

 25歳で、同施設などの観光施設を運営する株式会社南都に入社。自身が日々演舞する広場で、客と記念撮影をする「幸運の白ヘビ」を見るうち、「触ってみようかな…かわいい!」と、その魅力にはまったという。「それまでは生き物を飼った経験もなく、犬や猫すら怖くて近寄れませんでした。でも、ヘビには一緒に働く仲間、という意識が芽生えたのかな」と笑う。

 自ら志願し、ハブ博物公園へ配属。最初は無毒のヘビからスタートし、先輩から特訓やアドバイスを受け、1カ月で「ハブのショー」の舞台に立った。

 「エイサーとは違い、たくさんのお客さまの前に一人。最初は、お客さまの反応を見る余裕もなくて、自分のことで精一杯でした」。トークに気を取られるとヘビと接近し過ぎて驚いたり、客の反応を読めずに独り善がりになってしまったり。「今でも、1ステージ終わるとクタクタですよ」と語るが、その表情は充実感に満ちている。

 26歳で結婚し、2011年に来磨(らいき)君を出産。「妊娠した時は、もうこの仕事を続けられないのかなと思いました。でも、直属の上司が産休・育休を取れるよう配慮してくれて、大好きな現場に戻ることができました」と感謝を口にする。「母親になって、ママ目線になったというか、これまでは、大人の反応が気になっていましたが、自然に子どもたちに意識が行きます」と、心境の変化を語る。夫の諭(ゆう)さんは、出勤前「生きて帰ってきてね。己がいないと生きていけないからね」と見送ると照れながら話してくれた。

 現在、8人の「ハブラブガールズ」の一員として、1日5回のショーの進行はもちろん、ヘビをはじめ、カメやコウモリ、マングースなど園内で飼育する動物のケージの掃除や体調管理など、裏方もこなす。「スタッフ皆明るくて、毎日にぎやかです。子どもが生まれてから、急な発熱などでお休みをいただく事も多いんですが、『大丈夫、お大事に』って上司も含め皆がサポートしてくれます」と話す。スタッフ同士アイデアを出し合い、魅力ある商品や仕掛けを作るなど、心配りを欠かさない。しかし彼女には、さらなる目標がある。

 「欧米やアジアなど、外国人のお客さまが本当にたくさん来てくださるので、語学を勉強しなければと。そうすれば、もっともっと楽しんでいただけると思うんです。その上で、自分自身のオリジナルなショーを組み立ててみたい」

 いつか「知念己のショー」を見たいと言ってくださるファンができるといいな―。瞳を輝かせて語る彼女の、さらに成長した姿が楽しみだ。


島 知子/写真・島袋常貴



知念 己さん!
記念撮影用のニシキヘビを手にする知念己さん=南城市玉城のおきなわワールド文化王国玉泉洞内ハブ博物公園
知念 己さん
プロフィル
 ちねん・つちの 1984年、南風原町生まれ。
 6人姉妹の4女。南風原高校1年の夏、友人の誘いでおきなわワールド文化王国玉泉洞でエイサー演舞のアルバイトに応募。その経験を機に、活躍の幅を広げた。25歳で同施設を運営する株式会社南都に入社、同ハブ博物公園で「ハブラブガールズ」の一員としてショーを担当する。高校以来の友人・諭(ゆう)さん(27)と結婚。来磨(らいき)君(1歳)出産のため産休・育休を取得後、復帰した。
知念 己さん
☆仕事紹介☆
 知念さんが担当する「ハブのショー」は、特別な資格は要らないが、日々生き物を扱う職業だけに気が抜けない。一期一会の客との会話を大切にし、おもてなしの心で楽しんでもらうことが、自身の一番の喜びでもある。「観光業は時代を読まなければいけません。難しいけれどやりがいがあります」と語る。
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