「表紙」2013年09月05日[No.1483]号
自然の音色響かせて
葉っぱを吹いて音を出す「草笛」。那覇市の根路銘安弘さん(74)は、この小さな楽器の演奏を楽しむ。レパートリーは100曲以上。哀愁いっぱいに「ふるさと」を奏でたかと思うと、リズミカルに沖縄民謡「汗水節」を演奏する。その音色は素朴で澄み切っている。「この音が魅力ですね。小さな葉っぱで曲を吹いて、みんなが喜んでくれるのがうれしいんです」。イベントに呼ばれ、披露することもある。「一葉無限」を合言葉に、草笛を通して人との出会いを楽しんでいる。
笑顔生む音楽届ける
まるで歌っているように草笛でメロディーを奏でる根路銘安弘さんは、草笛の愛好者でつくる「全国草笛ネットワーク」の沖縄地区指導員でもある。「県内に他にしている人がいないか問い合わせたら、『あなたが指導員になって普及して』と言われたんだよ」と声をあげて笑う。自身の草笛の音色のように、明るく、飾らない人柄。吹いてはおしゃべりを楽しみ、次の曲を吹く。その繰り返しが楽しい。
練習を欠かさず
中学校まで大宜味村で育った。楽器などあまりない時代。身近にあるさまざまな植物が楽器になった。それが草笛との出合い。中学卒業後、那覇市に出てからは、長い間草笛から離れていたという。しかし30年ほど前からまた本格的に始めるようになった。
建築事務所の会長で、構造設計1級建築士として今も現役で活躍する。そんな忙しい中でも週1回の練習は欠かさない。毎週月曜の昼過ぎ、事務所にほど近い那覇市の松山公園で練習。那覇の中心部を潤す木々の間を、草笛のメロディーが流れていく。
練習はそれだけではない。草笛を吹くには肺活量が必要だ。特に、低音は広く大きく吹かないと出ないという。根路銘さんは実は短距離走のシニア選手で、週2、3回、浦添運動公園でランニングをする。肺活量も鍛えているのだ。
根路銘さんは吹き方や音の出し方などの説明書を作って、教えてほしいという人には気軽に応じている。しかし、簡単に吹けるようになるわけではない。「習いたいと来た人もいたけど、2時間練習してやっと音を出せたんだよ。簡単に吹けるようにならないから、会員も増えませんね」と根路銘さん。イベントでは、2時間半の指導で、音を出せるようになったのは1人だけだった。
共演を楽しむ
いろいろな葉を使えるが、薄くて張りのあるシークヮーサーやガジュマル、ベンジャミンなどが適している。特にベンジャミンは、ほどよく繊維があって「持ちがよくて、響きもいいですね」と根路銘さん。いつでも手に入るよう家に植えてある。「刺激のある葉、毒のある葉や農薬が付いている葉もあるから注意してほしいですね。使う前には必ず食器用洗剤などで洗うことが大切です」と強調した。
葉っぱは、少し湿気を持たせたビニール袋に密封して保管。冷蔵庫なら1週間程度もつ。それをジップ付きの袋に入れて、持ち歩く。ポケットからさっと取り出して吹けば、どこでもコンサート会場に早変わりだ。
説明書によると「公園、川辺、海辺、山中などで夕方に吹くのがいい」とのこと。「そっちの方が雰囲気が出るでしょう」と茶目っ気たっぷりに笑う。
練習のコツは「習うより慣れろ」。そこで、さっそく試してみた。葉の端を少し折り曲げて、唇に当てる。「口笛を吹くように」と根路銘さん。だが、いくら吹いても、音が出る気配もない。難しい。
お笑いイベントやテレビ、ラジオをはじめ、敬老会や結婚式などで毎月のように招かれる。三線や琴、バイオリンなどの楽器と共演することや、時には舞台に飛び入りで上がることもある。「祝いの席を潤すことができたらいい。こんな葉っぱでこんな曲ができるのかと珍しがられる。それが面白くてね」。難しい調律もいらない、もちろん電気も。舞台に上がり、得意なトークを交えながら一曲奏でれば、みんなが笑顔になる。それを見るのが楽しいのだ。
最近のお気に入りは「アメイジング・グレイス」という。木々が茂る松山公園で、木漏れ日を浴びながら吹くと、素朴で透き通った音が際立った。小さな葉っぱが生み出す音楽の世界は、どこか懐かしく、聞く人の心を豊かにしてくれる。
岩崎みどり/写真・呉屋慎吾
毎週月曜日12時半ごろから約30分、那覇市の松山公園で草笛を練習している。「知っている曲は吹ける」として、童謡、唱歌、懐メロ、民謡、洋楽など100曲以上吹ける