「表紙」2014年05月01日[No.1516]号
私たちの身の回りのものには、すべて歴史がある。清涼飲料水のビンも例外ではない。およそ1950年代から60年代頃、沖縄では、コカ・コーラを筆頭に、緑色のビンが数多く作られていたという。しかし、やがて透明が主流となり、緑色のビンは表舞台からゆっくり姿を消していった。沖縄のアンティークなビンを集めて、「ビンの博物館」という自身のホームページで紹介している宜野湾市の新垣徳夫さん(46)を訪ね、緑のビンから見える物語を教えてもらった。
歴史の詰まった宝物
新垣さんがビンを集め始めたのは1994年のこと。きっかけは、ある新聞記事だった。そこには、県内のコレクターが集めた古いビンが多数紹介されており、「何だこれは!?」と衝撃を受けたという。
試しに子どもの頃に遊んだ場所を探してみると、思いがけず多くのビンを発見。それから夢中になり、10年ほどの時間をかけて県内各地を探し、沖縄で流通していたほぼすべての種類を集めた。
ユニークな形が魅力
「緑のビンを見つけた時は、ワクワクしますね」と新垣さんはうれしそうに語る。
緑のビンには、1950年代〜60年代の古い時代に作られたと推定されるものが多いという。見せてもらうと、「ひばりコーラ」や「ハートコーラ」「OKコーラ」といった見慣れないラベルが貼られている。これらは、今ではほとんど現存しないメーカーが販売していた「県産コーラ」だ。しかし、なぜ古いビンには緑色をしたものが多いのだろうか?
「戦後いち早く沖縄に進出したコカ・コーラのビンに、緑というイメージがあったからでは」と新垣さんは説明する。そのうっすらと淡い緑は、コカ・コーラの故郷、米国ジョージア州の森林の美しさに由来することから、「ジョージア・グリーン」と呼ばれているそうだ。「資料がなく、はっきりしたことは分かりませんが、本家コカ・コーラに追随して、緑色を真似ようとしたのではないでしょうか」
確かに、県産コーラのビンは、色も形も昔のコカ・コーラに似ている。しかし、よく見ると形はメーカーごとに微妙に違っていることが分かる。例えば「ハートコーラ」には、名前の通りハート型の浮き彫りが施されているといった具合に、デザインにちょっとした工夫がなされているのがポイントだ。
「緑のビンは形に特徴があるんです。いろいろなデザインがあり、本当に面白いですよ。60年代くらいからは白いビンが出てくるんですが、白は形が3種類くらいに固定されてしまうんです」
時代の波にのまれて
緑のビンは、復帰後、それらを販売していたメーカーとともにほとんど姿を消してしまう。外から入ってきたメーカーにおされたり、当時の飲料に使われていた人工甘味料、サッカリンの発がん性が問題になったりしたことが原因だという。
そのため古いビンの情報は少なく、手探りで集めるしかない。新垣さんは、情報収集を目的に、2000年に「ビンの博物館」という自身のホームページも開設した。
そんな努力もあり、新垣さんのコレクションの話を聞きつけた人から、「この会社は昔、父がやっていたんですよ」などと連絡をもらうこともある。
「かつて『ひばりコーラ』を販売していた会社の社長が訪ねてきてくれた時はうれしかったですね。『ひばりコーラ』という名前は、全盛期の美空ひばりからとったそうですよ(笑)」
それぞれに個性がありながら、いつしか歴史の流れに埋もれ、忘れられてしまった緑のビン。それを探し出すのは、沖縄の戦後の歴史を掘り起こすことにも通じているのかもしれない。
新垣さんのコレクションは、ホームページ「ビンの博物館」で見ることができます。 www.cosmos.ne.jp/~norioa/topmenu.htm日平勝也/写真・呉屋慎吾
◇沖縄の事象を色で切り取ります。5月は「緑」です。