「表紙」2014年07月31日[No.1529]号
喉で楽しむ熟成
泡盛を長期間寝かせて熟成させる古酒(クース)。無色透明の色はそのままに、独特の臭みや辛さが消えて、まろやかな口当たりとコクが出る。「うまい古酒は口に含むと、喉に落ちるのが待ち遠しく感じる」と表現する与座義成さん(68)=浦添市=は、自らを「古酒の伝道師」と呼び古酒を造り続けている。試行錯誤した結果、性格の違う泡盛をブレンドして、うまさを引き出す方法にたどり着いた。「良く熟成した泡盛は世界の一流品になる。素晴らしい沖縄文化を引き継ぎたい」と力を込める。
混ぜ合わせ味に変化
古酒の伝道師・与座義成さんの本業は土地家屋調査士だ。普段はあまりお酒を飲まず、飲んでも晩酌にワインなどの洋酒を少量というから意外だ。
しかし自宅ビルの一室には泡盛の倉庫がある。各酒造所の銘柄、今はなき銘酒などがずらり。さらに、熟成中の壺も棚いっぱいに並ぶ。「全て絶品というわけではなく、熟成が足りないものもある。本当に極上の古酒は瓶で2本ぐらい」と笑う。貯蔵方法の実験を重ね増えてきた古酒は「うまさを知ってほしい」と訪問客に振る舞う。
恋に落ちるように
「二十数年前まで興味がなかった」と話す与座さん。ある時、県外から帰郷した同級生と飲みに行き、珍しく泡盛を飲んだ。そこで「20年以上の古酒」と出された泡盛が全ての始まりだった。
「それまで飲んだ泡盛と全く違っていた。口から喉に落ちていく時間が待ち遠しいほどで、『こんなのあるのか‼』という思いだった」と振り返る。それから「気が狂ったように」集め出した。
電話帳で酒屋を調べ、行って倉庫を見せてもらう。売れ残っている古酒を探すためだ。倉庫を見せることを渋る店主もいた。それでも古酒談議を重ねるうちに、与座さんの情熱を理解して、見せてくれた。個人の収集家にも声を掛けた。
しかし、最初に飲んだものと同じぐらいうまい古酒には合えなかった。「今でもあれを超える古酒は飲んでいない」と遠い目をする。「もしからしたら飲んだかもしれないけれど、あれは一種の初恋。いつまでも新鮮で超えることはない」
納得できる古酒に出合えないまま、気がつくと3年以上が過ぎていた。「歳月は早い」。そう気付き自ら造ることを決めた。
ブレンドが鍵
その後20年以上、うまい古酒を造るために試行錯誤してきた与座さん。「古酒造りは難しくない」と話す。与座さんの古酒の作り方を聞いた。
まず容器にこだわらない。一般的に壺が良いといわれるが、壺によっては味が落ちることもあるという。「壺は当たり外れがあり難しい。瓶でも十分に熟成する」。どうしても壺を使いたい場合は、1升以下の小さいものは避ける。
次に置く場所。暑さは大丈夫だが、日光が当たる場所は避ける。臭いが強い所も不向きだ。「以前、仏壇の下に置いておいたら、線香臭くなったと聞いたことがある」と話す。また、揺らすことで熟成が進む。「手の届く所に置いて、気が向いたら揺するといい」
そして泡盛は40度以上を選ぶ。度数の低い酒は長い間に水っぽくなるそうだ。熟成しにくい酒もあり、売れ筋の口当たりがいい酒は向かないという。
与座さんの古酒造りの一番の特徴は「ブレンド」だ。同じ酒造所の泡盛を足すという一般的な方法ではなく、違う酒造所の製品をブレンドし、目指す味に導く。例えば、甘さが足りなかったら甘い酒、辛すぎるならコクのある酒ーを混ぜる。「寝ぼけた酒が時々あって、その場合は若い酒を足すと華やいでくる」と言うから面白い。瓶でブレンドしても大丈夫だ。
いつ、どの銘柄をブレンドしたかの履歴と味や香りについてのコメントを書き記した札を壺や瓶につけておく。与座さん自慢の逸品の一つは、10年古酒の太平を中心に、10年のおもろ、12年の松藤、13年の瑞泉を1993年にブレンドしたものだった。
待ちに待った試飲。小さいおちょこに一口ずつ飲む。口に含むと、その甘さに驚く。角が取れて丸みが出た味は何とも優しい。飲み込むと、喉の奥にほのかな余韻が残った。いくつかの壺から飲ませてもらったが、どの古酒も飲みやすいのに、喉の奥で感じる味が異なり、しっかり個性がある。そして体内に熱く染み渡っていく。一流の泡盛は、どこまでも優しくて味わい深かった。
岩崎みどり/写真・呉屋慎吾