「表紙」2014年08月14日[No.1531]号
デンファレ、スターチス、アルストロメリア…。少しずつ違う紫色の花々はみずみずしくて、摘み取ったばかりのよう。この鮮やかな花々が実は押し花だと知ったら、驚く人も多いだろう。「早く乾燥させることで鮮やかな色を残すことができます」と説明するのは、押し花インストラクターの中島トモ子さん(58)=那覇市。花だけでなく、木の皮や野菜、果物も押し花にする。そして自然の形を生かして、チョウや鳥、人形、風景を描いている。
野菜、果物も作品に
中島トモ子さんは、押し花の全国組織・ふしぎな花倶楽部で学んだ。同団体の技法は、専用の乾燥マットで素早く乾燥させ花の色を残す。そして、果物など花以外の素材も使い、風景画やコラージュなどを描くというものだ。
中島さんもヤシ、エビヅル、カユプテなどの樹皮や枝、葉の他、果物や野菜も使う。ゴーヤー、スイカ、ミカン、キウイなどは中身をくりぬきマットに挟み、毎日マットを換えてきれいに乾燥させる。
県内のインストラクターが加入する「沖縄ガイア押花会」に参加。同会で定期的に展示会を開く。個人では、那覇市の牧志駅前ほしぞら公民館で押し花教室「トコフルール」を運営。他の公民館などで体験教室を開くこともある。
人生変える出合い
インストラクターとして積極的に押し花を広めている中島さん。だが「押し花に出合う前はなるべく目立たないように、人が決めた事についていくタイプでした」と明かす。
運命の出合いは1995年だった。当時は子育て真っ最中で「子どもしか見ていなかった」という。ある時、友人からふしぎな花倶楽部の沖縄初の展示会に誘われ、子どもたちと見に行った。そして美しい押し花の世界に目を奪われた。「それまで押し花はセピア色のイメージがありました。鮮やかな色に『これが押し花なの』と、言葉が自然にもれましたね」
「絵を描けず、カラオケもダメ。自分を表現する方法を持っていませんでした。それがコンプレックスになっていたんです」と振り返る。迷うことなく同団体が沖縄で初めて開く教室への参加を決めた。費用は保険を解約して捻出。県内でのインストラクター1期生となった。
ボランティアで教えていたが、次第に希望者が増えて教室を開くように。「私は押し花を通して積極的になりました。今は教室で教えることが楽しくて。生徒さんが積極的でいろいろな花に挑戦するから、逆に教えてもらうことも多いんです」と目を輝かす。体験教室を開く時は、生徒にも手伝ってもらっているという。
個性を大切に
「押し花をすると、周囲にある草花に目をやり、季節の変化を感じるようなります」と話す中島さんに簡単にできる押し花の作り方を聞いた。
まず、押し花にする花をティッシュに挟み、それを新聞紙で挟む。さらに段ボールで挟み、大きい洗濯バサミで4辺をとめる。なるべく毎日、花の水分で湿った新聞紙を乾いたものに交換して、3日ほど置く。
花が乾いたら、台紙の上でレイアウトを決めて、ブックカバーに使われる大きめの透明セロハンでカバーすれば完成。「花は厚さの薄いものがいいです。今の時季はサンダンカがお勧め。私が一番好きな花でもあります」と話す。
7月28日、8月4日に那覇市の小禄南公民館で開かれた親子教室。講師を務めた中島さんは、参加した親子を回り、自らも楽しみながら指導に当たった。使った花は公民館周辺に生えている植物を中心に身近なものばかり。家のハイビスカスや自分で育てた朝顔を持参する子もいた。
中島さんは「レイアウトで、どこに何を置いたらいいなどと口は出さず、子どもに任せるよう心がけています」と話す。「きれいに、上手にではなく、個性を大切に作ってもらいたい。誰にもまねできない、その人らしい作品ができたらいいですね」
夏休み真っ盛り。身近な花で世界に一つだけの押し花を作ってみたくなった。
岩崎みどり/写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)