年
「表紙」2015年05月28日[No.1571]号
母娘燦燦 — おやこ さんさん — 9
桐原 好枝さん しゃかり チアキさん（ミュージシャン）
離れた時経て 思い出育む
透き通る声で心地よい「島の唄」を届けてくれる「しゃかり」のボーカル、チアキさん（42）。夫のカンナリさんと組むこのユニットの名前は、生まれ育った北谷町「謝苅」の読みにちなんだものだ。チアキさんは謝苅で祖母に育てられた。その間、母の桐原好枝（65）さんは、県外に出稼ぎに出て家族の生計を支え続けた。遺伝性の障がいで40歳のころ全盲となるが、チャレンジ精神旺盛で、人生を謳歌（おうか）している。そんな母には「苦労してきた分、好きなことをして楽しんでもらいたい」と言うチアキさん。離れて暮らしていた２人は、今新たに思い出をつくっている最中だ。
出稼ぎで家族支えた母
チアキさんは、幼い頃母の桐原好枝さんと過ごした記憶があまりない。
23歳でチアキさんを生んだ好枝さんは３年後に離婚。全盲の母にチアキさんを預け、県外に出稼ぎに出た。遺伝性の網膜色素変性症で「将来失明する」と医師から告げられていた好枝さん。視力が低下する中でも「家計を支えるために必死で、昼も夜も働きました」と話す。
チアキさんは、好枝さんと毎年夏休みに会えるのが楽しみだった。好枝さんが出稼ぎに戻る日、那覇空港に見送りに行った帰り道で、基地のフェンスを見ながら「かあちゃん、かあちゃん」と泣いていたという。それでも、母の前では涙を見せまいとこらえていた。「子どもながらに母が稼がないといけないというのは分かっていました」と振り返る。
音楽の道に進む決意
チアキさんが歌を好きになったのは、音楽が好きな祖母の角田良子さんの影響が大きい。家の中では、いつも音楽が流れていた。わらべ唄を教えてくれたり、一緒に島歌などを歌って遊んでくれたりもした。そんな孫の歌声をカセットテープに残すことが、目の見えない祖母にとっての写真アルバム代わりだった。
ある日、カセットテープに録音されたチアキさんの歌声を聞いた好枝さんが、テレビのカラオケ大会に出るよう勧めた。チアキさんが12歳の時だ。嫌々ながら出場したが、結果は優勝。みんなが喜んでいる姿を見て、チアキさんもうれしくなった。特に、祖母は副賞の掃除機に大喜びした。「歌を頑張れば稼げる。母も出稼ぎに行かないですむかもしれない」とその時思った。放課後は毎日のように那覇のタレント養成所にバスで通い、高校1年までの3年間、歌などのトレーニングを受けた。番組を見ていた養成所の社長が特待生にしてくれたという。
母娘で舞台共演も
好枝さんが出稼ぎに出て10年たったころには生活も安定し、沖縄に戻った。喫茶店などを始めたが、40歳ごろ完全に失明。店を閉めざるを得なくなった。50歳のとき、自立するためマッサージの資格を取る決意で、福岡に渡り5年間学校に通った。そして、あん摩マッサージ指圧師の国家試験に合格。10年前、自宅で鍼灸（しんきゅう）マッサージ店を開いた。
好枝さんの施術を受けるのは「子どものときに全然触れ合っていなかったので、これまでの時間を凝縮したような感じで、不思議な気持ち」だと語るチアキさん。今でも母に感謝していることがある。10年前に顔面まひを患った時、鍼（はり）をしてもらい、劇的に改善したこと。今も撮影やライブの前は必ず施術をしてもらうほどで、「本当に上手」とその技術を絶賛する。
バイタリティーあふれる好枝さんは「失明してからの方が、何事もするようになりました」と声を弾ませる。古典太鼓や横笛、琉球舞踊などの稽古にも励んでいる。盲導犬のウィッピーとマラソン大会にも出場した。好枝さんの踊りを初めて見た時、チアキさんは「こんなに踊れるなんてすごい」と思って号泣した。2人でコンサートのステージに立ち、母娘共演も果たした。
毎日楽しそうに過ごす好枝さんに「これからは好きなことをしてほしい」と思いやるチアキさん。「母をひとりの人間として尊敬しています。でも、『母として』というのは、今はまだ照れがあります」と微笑んだ。離れた時間を取り戻すように、２人は思い出を作っている途中。絆はさらに深まっていくことだろう。
坂本永通子／写真・喜瀬守昭（サザンウェイブ）
プロフィール
きりはら・よしえ1949年奄美大島生まれ。幼い頃家族で北谷に移住。結婚、出産、離婚を経て、約10年間東京で働く。2000年福岡県のマッサージ学校に入学。5年後、国家資格を取得。2008年に自宅でマッサージ店「桐ちゃんの手」をオープン
ちあき
1972年北谷町謝苅生まれ。12歳で出場したカラオケ番組の優勝をきっかけに音楽に目覚める。93年ディアマンテスのコーラスとしてメジャーデビュー。5年後に脱退。98年に「しゃかり」を結成、ボーカル・三線を担当。2002年琉球古典音楽芸術選賞（歌・三線の部）最高賞受賞
しゃかりライブ情報：
6月19日（金）19：00〜
IZAKAYA SHINKA（那覇市牧志）
☎098-943-9337
