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[No.1592]

  • (金)

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「表紙」2015年10月22日[No.1592]号

母娘燦燦

母娘燦燦 — おやこ さんさん — 30

ちぎり絵講師 仲吉 正子さん 水彩画家 富村 千賀子さん

アトリエは台所

 母はちぎり絵、娘は水彩画—。仲吉正子さん(72)と娘の富村千賀子さん(50)は、絵を描くことを楽しんでいる母娘だ。ともに専業作家ではないため、仕事や家事の合間をぬって創作に励む。だが2人の実力は趣味の域を超え、正子さんはちぎり絵講師として18年にわたり活動。千賀子さんも沖展をはじめとする展覧会で入選を重ね、2度の個展を開催した。「私のアトリエは台所。夜、家族が寝静まってから絵筆を握るんですよ」と笑う千賀子さんに、正子さんも「私も同じ。早朝まだ寝静まっている時間にちぎり絵をやっているよ。やっぱり親子だね」と目を細める。



美術も仕事も、一生懸命

 洋裁の仕事に携わっていた仲吉正子さんがちぎり絵と出合ったのは1988年、44歳の時。「友人に誘われて、沖縄市のちぎり絵講習会に行ったんです。初めてだったんですが、2時間の制限時間で、自分でも驚くほどいい作品が仕上がりました」。題材はアカバナー。その作品を見せてもらうと、花や葉の濃淡も水彩画のようなタッチで見事に表現され、とても未経験者の作品とは思えない出来栄えだ。

 「それから、ちぎり絵が忘れられなくなった」。子どもたちが手を離れるまではと、しばらくの間その思いは封印していたが、自作のちぎり絵を居間に飾り、「いつかちぎり絵がしたい」という思いを募らせていたという。

 正子さんは、手に職をつけたいという思いから、高校卒業後に洋裁の道に進み、78年には夫とともに紳士服仕立てを行う「アサオ商事」を設立。3人の子どもを育てながら経営を続ける多忙の日々だった。

 念願をかなえたのは、初めてのちぎり絵体験から6年後。神戸からちぎり絵の講師を招き講習会が開かれるという話を聞きつけた正子さんは、居ても立ってもいられず、「和紙ちぎり絵しゅんこう沖縄分校」に入学。仕事の合間をぬい、那覇の教室に通い詰めた。

 手先が器用で何事にも熱心に打ち込む正子さんは、めきめきと力を発揮。97年、53歳で認定講師の資格を取得し、翌年から現在まで18年、宜野湾市の中央公民館や老人福祉センターで講師を務めている。



絵が好きな娘

 娘の千賀子さんは、「小さいころから絵が好きで、家でスケッチをするような子どもでした」と話す。小学校、中学校では、絵画コンクールに出すたび入賞。高校生の時には、千賀子さんが手がけた学園祭の壁画の写真が校長室に飾られ、学校たよりの表紙に使用されたこともあったという。

 美大への進学も考えたが、「英文科に行って語学の勉強をすれば、一生困らない。美術は趣味に生かしなさい」という母の説得により、沖縄国際大学の文学部英文学科を卒業。沖縄科学専門学校の秘書を経て、結婚後は3人の子どもを育てながら仕事を続け、現在は得意の英語を生かしベース内で不動産を扱う仕事に就いている。

 30代後半、家族で旅行した中国で出合った水墨画に衝撃を受け、県立芸術大学の学生で、宜野湾市中央公民館の水墨画サークルにて講師を務めていた李蓓(リペイ)氏から水墨画の手ほどきを受けた。続いて、偶然出合った絵からそのタッチに強くひかれ、水彩画アトリエ杜の山田武氏に師事。水彩画と水墨画をミックスした独自の幻想的な画風への道が開けた。山田さんの勧めで応募した県内外のコンクールに次々と入選を果たし、昨年、パレットくもじ6階市民ギャラリーでの初個展の開催に至った。

 今年に入りさらに活躍の場を広げ、デパートリウボウ7階美術サロンで2回目の個展を開いたほか、国頭村の安田小学校を舞台にした「墨と音のライブ・コンサート」にも出演。作家として、華々しい活動を繰り広げている。

夢は2人で作品展

 ビビッドな色彩のちぎり絵に、淡いタッチの水彩画。技法や画風は異なるが、母娘の創作への姿勢は共通している。2人とも仕事や家事をこなしつつ、夜中や早朝に時間を作って創作に没頭する。

 「絵は、家族が寝静まってから夜中のキッチンで描いています」という娘に、母も「私も夜中や早朝に時間をつくって描いている。親の私の姿を見て育ったから、娘もそうなったんだね」と笑う。

 母娘の夢は、いつか2人で作品展を行うこと。その時、会場にどんな作品が並ぶか楽しみだ。

(日平勝也)



プロフィール

なかよし・まさこ
 1944年うるま市生まれ。高校卒業後、洋裁の道に進み、1966年に夫と婦人服仕立「マーコテーラ」、1978年に紳士服仕立「アサオ商事」を設立。1988年、沖縄市中央公民館の講習会でちぎり絵と出合い、1994年に和紙ちぎり絵しゅんこう沖縄分校入学。1997年に和紙ちぎり絵しゅんこう認定講師、日本和紙ちぎり絵協会賛同会員。1998年から現在まで、宜野湾市の中央公民館や老人福祉センターでちぎり絵講座やサークルの講師を務めている。

とみむら・ちかこ
 1965年沖縄市生まれ。沖縄国際大学文学部英文学科卒業後、秘書や不動産関連の仕事に携わる。2005年に中国水墨画を李蓓氏に師事。2009年に水彩画アトリエ杜の山田武氏に師事し、現在の画風を生み出す。2011年、サロン・デ・ボザール展での奨励賞受賞を皮切りに、県展・沖展などに入選。2014年にパレットくもじ6階市民ギャラリーで水彩画展(初個展)、ことし8月にもリウボウ7階美術サロンで水彩画展。水彩画では「千賀」、水墨画では「黄千賀」の作家名も用いている。



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ちぎり絵講師
自身の作品を手にする仲吉正子さん(左)と富村千賀子さん。背後の絵は、ことしの沖展で入選した千賀子さんの作品「紅芙蓉(べにふよう)」。水彩画と水墨画の技法をミックスし、独特の世界を生み出している=中城村内、富村千賀子さんの自宅リビング
写真・喜瀬守昭(サザンウェイブ)

ちぎり絵講師
はじめて作ったちぎり絵を手にほほ笑む正子さん。この作品は、ずっと居間に飾られているという
ちぎり絵講師
千賀子さんのアトリエは台所。家族が寝静まってから作業を始める。「台所は水場が近いから便利なんですよ(笑)」
ちぎり絵講師
(左)正子さんの作品。表情までちぎり絵で繊細に表現している。(右)淡く幻想的な千賀子さんの作品
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