沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1610]

  • (日)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2016年03月03日[No.1610]号

母娘燦燦

母娘燦燦 — おやこ さんさん — 47



金城ベーカリー
金城 尚子さん
屋宜 織絵さん

家族で明日へつなぐパン作り

 那覇市首里にある「金城ベーカリー」は、長年地域住民に親しまれている老舗のパン屋さん。金城尚子さん(65)の義父・睦秀さんが自宅の台所から起業したのが始まりだ。まだ戦後まもない1952年のこと。当初は委託販売をしていたという。創業者の3男・伸治さん(61)のもとへ嫁いだ尚子さんは、主婦業の傍ら売り場を手伝っていた。2012年の店舗リニューアルに伴い本格的に店に入り、娘の屋宜織絵さん(38)と共に忙しいながらも充実した日々を過ごしている。



長い歴史 守り続ける

 金城ベーカリー創業のきっかけは、尚子さんの義理の祖父・金城睦太郎さんがカナダへ移住した戦前にさかのぼる。現地では自宅でパンを焼いて食べていたという睦太郎さんは、帰郷後しばらくしてから米軍払い下げのオーブンを手に入れた。物資不足の時代、配給された小麦粉でパンを作り、近所の人へ配るなどしていたという。その後、息子の睦秀さんにパンの焼き方を教えたことが1952年の創業へとつながった。

 1959年には工場が増築され、60年からスタートした学校給食のパン製造を請け負うことに。

 尚子さんがパン職人の伸治さんと結婚したのは1976年のこと。主婦業の傍ら、工場の前にあった焼き立てパンの売り場をときどき手伝っていたそうだ。結婚前に経験していた会社勤めとは全く違う雰囲気の中「慣れない接客業に戸惑いもあった」と振り返る。



店づくりに娘の力

 1980年ごろには南風原工場が建設され業務を拡大したが、数年前に道路拡張工事のため立ち退きの対象となってしまう。長年稼動してきた工場を別の場所に移すことなく、会社組織は解散。尚子さんと織絵さんは、当時工場で働いていた伸治さんと長男の伸幸さん(34)と共に店舗の存続について話し合ったという。

 「主人は60歳前でしたから、いろいろと考えたようです。でも息子は続けたいという強い意志があったみたい。結局、長く続いた伝統をなくすのはもったいないよね、ということになって主人が店舗を引き継ぐことになったんです。私も本格的に店に入ることになり、娘にも一緒に働いてほしいと頼みました」と尚子さんは話す。

 娘の織絵さんは「パン屋さんの仕事は経験がありませんでしたが、家族で始めるということだったので抵抗を感じませんでした」とすんなり母の言うことを受け入れたそう。勤めていた会社を退職し、当時の店舗スタッフに業務内容を教えてもらった。

 店舗は工場を併設してリニューアル。2012年、尚子さんら家族4人を中心に金城ベーカリーの新しい歴史が始まった。

地域に根差す

 娘が一緒に働いてくれることを心強く思っていた尚子さんは、そのころ体調に不安があったという。

 「58歳のとき腎臓病を患い、2年間透析もしていました。主人が腎臓提供を申し出てくれて、検査の結果、移植手術を受けられることになったんです。おかげで今は元気になりましたが、逆に主人の方がお酒を飲んだときに大丈夫かな、と心配になりますね」と話す。

 今ではほぼ毎日店に出て、長いときで10時間以上働くという尚子さん。サンドイッチやパンの具材、スタッフのまかないを作ったり、仕入れに行ったりと「『何でも屋』です」と言って笑う。

 一方、織絵さんは事務、販売、配達をこなしながら今後の展開を模索中だ。

 「せっかくおじいちゃんが長く続けてくれたので、このまま維持できたらと思います。以前と違って大きな工場がない分、小回りの利く店としてできるだけお客さんの要望にお応えできるようにしたいですね」と前を見る。

 尚子さんは「どうにか生活ができるように続けていきたい。特に大もうけしたいとは思っていません」と謙虚だが、長い歴史を守りたいという気持ちは娘と同じはずだ。

 地域に根差し、60年以上親しまれてきた町のパン屋さん。これからも昔ながらのパンや、新しいアイデアを盛り込んだオリジナルのパンを作り続けてほしい。

(﨑山裕子)



プロフィール

きんじょう・なおこ
 1950年、那覇市首里出身。首里高校染色科卒業後、静岡の染物工房で働く。帰沖後、洋裁学校で学び、卒業後は事務職などを経験。1976年伸治さんと結婚し、織絵さんと伸幸さんを出産。2012年3月から本格的に金城ベーカリーで働き始める。工場や店舗内の業務に加え、時には配達もこなす

やぎ・おりえ
 1977年、那覇市首里出身。専門学校卒業後、営業事務、経理、広報担当を経て2012年3月より金城ベーカリーで事務、販売、配達を担当。店舗のチラシなども作っている

金城ベーカリー
那覇市首里赤平町2-51-3
☎098-884-2505
8:00〜18:30(土曜は18:00まで)
日曜定休



このエントリーをはてなブックマークに追加



金城ベーカリー
昔から人気の「デンマークパン」を持つ金城尚子さん(左)と屋宜織絵さん。店内にはさまざまなパンやケーキなどが並ぶ=金城ベーカリー(那覇市首里赤平町)
写真・村山 望
金城ベーカリー
1952年に現在の店舗がある場所で創業。59年、工場を増築した
金城ベーカリー
パン窯の前に立つ金城さん一家
金城ベーカリー
伸治さんの力作「ミルク食パン パンダちゃん」。右は、小学校PTAの要望で生まれた「紅白メロンパン」。十三祝いなどで配られるそう
金城ベーカリー
織絵さんの小学校入学式
>> [No.1610]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>