沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1630]

  • (日)

<< 前の記事  次の記事 >>

「表紙」2016年07月21日[No.1630]号

父娘日和

父娘日和 16



株式会社みやぎ農園 代表取締役社長 宮城 盛彦さん
小田 彩乃さん

理想の養鶏 追い求める

のどかな自然が広がる南城市大里にある「みやぎ農園」。養鶏で知られる同園に入ると、一般の養鶏場とは違った風景が広がる。宮城盛彦さん(58)たちがここで行うのは、鶏の習性に着目して始めた鶏8千羽の平飼い飼育。一般的なケージ飼いと違い、地面を自由に動き回れる鶏にとってストレスのない環境だ。酵素が豊富な青草などで育った鶏からとれた新鮮な卵は臭みがないと評判を呼び、県内外で人気を集めている。次女の小田彩乃さん(29)も父と同じ道へ。幼い頃から鶏を見てきたからこそ分かる鶏に対する感覚を生かし、父を支える。



鶏の習性から学んだ飼育法

 宮城盛彦さんが養鶏の世界に入ったのは今から36年前のこと。サトウキビを栽培していた両親の影響で、「農業が染み込んでいた」という盛彦さん。農業高校を卒業後は東京の大学の農獣医学部に進学。卒業後は沖縄に戻り、兄の養鶏場で働き始めた。

 任されたのは、2万5千羽のひなの管理。しかし、実際に現場で働いてみると、ひなが大量死するなど、これまで学んできた知識はほとんど役に立たなかった。壁にぶつかった盛彦さんは、ケージ内で育つ鶏の行動を朝から晩まで研究。本来の姿に近い、鶏の習性を生かした環境で育てようと決意した。 8年後の1988年に独立し、平飼いによる養鶏をスタート。酵素をたっぷり含んだ青草や発酵飼料を食べ、健康に育った鶏の卵は、新鮮で臭みがないと県内外から高い評価を得ている。

 そんな父のもとで育った彩乃さんだが、家業を意識し始めたのは、熊本の大学に入学してから。自分で生活をするようになったことが転機となった。「卵を買いに行き、この卵を産んだ鶏たちはどういう環境で育ち、どういう餌を食べ、どういう気持ちで卵を産んだのかなと考えたときに、実家の養鶏は良いんじゃないかと気付いた」。その後、専攻を農学部・応用動物学科に変更、動物の飼育などを本格的に学び始めた。

父の養鶏の魅力実感

 大学卒業後には違うフィールドを見るためにスイスの完全有機農家へ1年間留学。「このまま父の下に行っても、父以上の考えを持てることはないだろう」と考えた末のことだった。「飼養管理に関してはお父さんにかなわないから、それ以上のものを見つけてくる」。そう父に言い残し旅立った。

 彩乃さんが留学で得た収穫は2つ。1つは「沖縄でやるにはやっぱり実家の養鶏スタイルが良いと確信したこと」。もう1つは同時期にヨーロッパに留学していた、夫の小田哲也さんと出会ったことだ。滋賀県出身の哲也さんとは2013年に結婚、昨年には長男の笙太郎(しょうたろう)君を出産した。哲也さんはみやぎ農園で働き、彩乃さんたちを公私ともに支えている。

 今でも父に対しては「養鶏に関しても、人間的にもかなわない」と語る彩乃さん。そんな彩乃さんに対し父は絶大な信頼を寄せる。「鶏に対する感覚的なものが備わっている。臭いやひなの鳴き方などで異常が分かるのが彼女。それは教えてできるものではない」と評価する。

 現在、育児を中心に過ごす彩乃さん。「現場が好きなので、子育てが一段落したら、現場に戻りたい」と本格的な再開に意欲的だ。そして「息子には好きな道に進んでもらいたいけど、魅力を感じてもらえるような養鶏をやって、次につなげていけたら」とほほ笑む。

進化続ける養鶏の形

 現在みやぎ農園では、養鶏から派生した事業も展開している。売れ残った卵を、有効活用できないかと思いついて製造を始めたマヨネーズは、メディアでも紹介され、県内外から反響を呼んだ。今は1日に200本も売れるほどのヒット商品となった。

 「養鶏を核に農家や消費者とより良い関係を築いていきたい」という盛彦さん。鶏のふんを発酵させた堆肥を農家に提供し、環境に優しい野菜作りもサポートする。農家との勉強会もみやぎ農園で毎月開催。約40人の農家が集まり、共に学び合える場も作った。

 盛彦さんの挑戦は終わらない。今後はブータンをはじめ、海外への技術提供も計画するなど、国外にも目を向ける。「これからもどんどん変わっていく」というみやぎ農園。「新たな発見があれば、研究してより良くしていきたい」と盛彦さんは話す。日々、安心・安全な食の理想に向かって歩み続ける姿がそこにあった。

(坂本永通子)



プロフィール

みやぎ・もりひこ
 1958年南城市生まれ。日本大学農獣医学部卒業。1980年兄と養鶏(ケージ飼い)を始める。1988年に平飼い養鶏をスタートさせる。2000年にマヨネーズの生産・販売を開始、2005年にプライベート特別栽培を開始する。2008年に株式会社みやぎ農園を設立し、県認証特別栽培を始め、2010年に自社農園における農業研修システムを開始。現在は、海外への養鶏技術移転事業を開始。スタッフ16人、成鶏8千羽を抱える

おだ・あやの
 1986年南城市生まれ。熊本県の東海大学卒業。スイスの有機農家に1年間の留学を経て、みやぎ農園に就農。2013年結婚、2015年に長男を出産。現在、育児と並行して、みやぎ農園を手伝う

株式会社みやぎ農園
南城市大里字大城2193
☎ 098-946-7646
http://www.miyaginouen.com


このエントリーをはてなブックマークに追加



宮城 盛彦さん 小田 彩乃さん
平飼いの鶏舎内で鶏に囲まれる宮城盛彦さん(右)と娘の小田彩乃さん。有用微生物を活用しふんを分解、堆肥化しているため、鶏舎の中に入っても臭いがほとんどしないのが特徴だ=南城市大里のみやぎ農園 
写真・村山望
宮城 盛彦さん 小田 彩乃さん
養鶏場の前に並ぶ宮城さん一家。左から長女の洋子さん、妻の朝子さん、彩乃さん、盛彦さん
宮城 盛彦さん 小田 彩乃さん
5歳の頃の彩乃さんと盛彦さん
宮城 盛彦さん 小田 彩乃さん
彩乃さんの成人式のときの写真。両親とポーズ
宮城 盛彦さん 小田 彩乃さん
彩乃さんと夫の哲也さん、息子の笙太郎君
>> [No.1630]号インデックスページへ戻る

↑このページの先頭へ戻る

<< 前の記事  次の記事 >>