「表紙」2016年09月15日[No.1638]号
父の味 形変え継ぐ
本部町崎本部で、50年にわたり昔ながらの豆腐を作り続ける山城とうふ店。その2代目の山城好充(よしみつ)さん(65)は、先代を継いで28年間、早朝3時から豆腐作りにいそしんできた。日が昇った頃に好充さんが豆腐作りを終えると、娘の具志堅玲乃(あきの)さん(36)さんが入れ替わるように工場へ。父の豆腐作りから出たおからと豆乳を使ってヘルシーなマフィンを焼き上げる。父娘ならではの連携プレーを見せる好充さんと玲乃さん。「実は、子どもの頃は父が豆腐職人なのが嫌だったんです。でも今は、心から尊敬していますね」とほほ笑む。
豆腐がつなぐ親子の絆
「子どもの頃の記憶にある父の姿は、いつもエプロン姿に雨靴。工場のおじさんという感じで、正直、かっこよくないと思っていましたね」
玲乃さんは、父・好充さんの思い出をこう振り返る。
「スーツを着たサラリーマンのお父さんがうらやましくて、『何でうちのお父さんと結婚したの』と母を困らせたこともありました(笑)」
早朝3時から起き出し、盆と正月以外1日も休むことなく黙々と豆腐を作り続けてきた好充さん。玲乃さんの記憶には、その後ろ姿が焼き付いているという。
好充さんは、本部町崎本部で50年続く「山城とうふ店」の2代目。もともとは、好充さんの母が手作りし、地元の人々に売り歩いていた小さな豆腐店だった。
その味を守り、地釜で手作りを続ける山城とうふ店の島豆腐には、機械で作る豆腐にはない、昔懐かしい味わいが残っている。
手探りからの出発
好充さんは、高校卒業後、ホテルマンとして13年勤務。仕事は忙しく、家にいる時間がとれなかった。好充さんは「もっと家族のそばにいて、一緒に過ごしたい」との思いからホテルを退職。山城とうふ店の2代目として、豆腐作りを始めた。
母の豆腐作りを見ていたため、ノウハウはあったものの、手探りでのスタート。試行錯誤を繰り返しながら、1年ほどでようやく軌道に乗せられた。
「自分1人で作って配達していたので、毎日が眠気との勝負だった」と好充さんは当時を振り返る。配達の車に玲乃さんや妹の奈理美(なりみ)さん(33)を乗せ、眠らないように見張ってもらったこともしょっちゅうだったそうだ。ストランも構えるまでになった。これまでの功績を評価され、農林水産祭・天皇杯の他、数多くの賞も受賞。栄養価の高い沖縄の薬草は海外からも注目を浴びるようになり、台湾や中国、タイ、韓国などへの海外輸出も本格的に展開している。
父はかっこいい
「ホテルマンの父は私はあまり覚えていなくて、物心ついた時には家は豆腐屋さん。私たちも夜中に手伝いや配達にかり出され、本当に嫌だと思っていましたね」と玲乃さん。
そんな玲乃さんは高校を卒業後、県外の大学で人間福祉学を専攻。卒業後は、沖縄で社会福祉士として働き、キャリアを築いてきた。
転機は3年前。本部高校で非常勤講師を務め、高校生に進路をアドバイスするようになった玲乃さんの心に「私自身は自分で思うように生きられているかな?」という思いが生まれ、「人生は一度きり。後悔はしたくない」と起業を決意。子どもの頃から好きだったお菓子作りで何かできないかと考えるようになった。
思いついたのが、父の工場から出るおからや豆乳を使ったお菓子作り。最初は身近な友人などに試作品をプレゼントするうちに注文が入るようになり、2014年8月にもとぶ町営市場内に「スイーツショップ SOYSOY(ソイソイ)」をオープンした。
そのころには父へのイメージも180度変わっていた。「ストイックにずっと豆腐を作り続ける父を、本当にかっこいいと思うようになりました。今では、心から尊敬しています」とほほ笑む。
長年、好充さんは妻の京子さん(60)と2人で卸のみを行っていたが、3年ほど前に、次女の奈理美さんが「父の豆腐を広めたい」と宅配を開始。その矢先に、好充さんがけがをして男手が必要となったため、長男の怜司さん(39)も豆腐作りを行うようになり、数名のスタッフも加わった。
「豆腐はものを言う。手抜きをするとすぐ固すぎたり、柔らかくなりすぎたりする。愛情が入ってこそ、おいしい豆腐ができる」という好充さんの言葉に、「私もお菓子作りを始めて、材料となる豆乳の濃さが毎日微妙に違うことに気が付くようになりました。豆腐作りは本当に奥が深いですよ」と玲乃さんもうなずく。
父の豆腐の味は、形を変えて娘に受け継がれている。
(日平勝也)
プロフィール
やましろ・よしみつ1951年生まれ。高校卒業後、ホテルマンとして13年勤務した後、実家の豆腐店「山城とうふ店」を継ぎ、3年前にけがをするまで、盆と正月以外1日も休まず昔ながらの製法で豆腐を作り続ける。3年前からは長男・怜司さん、2女・奈理美さんも家業を手伝う
ぐしけん・あきの
1980年生まれ。高校卒業後、県外の大学で人間福祉学を学び、帰沖後、社会福祉士として勝山病院、本部町地域包括支援センターなどに勤務。2013年に子どもの頃から好きだった菓子作りを生かし企業を決意。2014年8月にもとぶ町営市場内に「スイーツショップ SOYSOY(ソイソイ)」を設立し、父の工場から出たおからや豆乳を使ってスイーツを作り販売している
山城とうふ店
本部町崎本部73 ☎0980(47)5139
スイーツショップ SOYSOY
本部町渡久地4 もとぶ町営市場内
☎0980(43)6003
www.soysoy.info
写真・村山 望