沖縄の日刊新聞「琉球新報」の副読紙「週刊レキオ」沖縄のローカル情報満載。



[No.1702]

  • (金)

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「表紙」2017年12月07日[No.1702]号

ザ夫婦

ザ・夫婦(み〜とぅ) 36


県産手作りチーズ店「ザ・チーズガイ」
ジョン・デイビスさん
貞子・デイビスさん

沖縄をチーズの島に沖縄をチーズの島に

 まるでサンタクロースのような立派な白ひげをたくわえたこの男性。南城市の牧場で採れたミルクを使った手作りチーズを手に、「メリー・クリスマス」ならぬ「メリー・チーズマス」とクリスマスを祝う。男性の名は、ジョン・デイビスさん(69)。10年前、温暖な気候を求めて妻の貞子さん(62)と共に沖縄に移住したジョンさんは、未経験の状態からチーズ作りを開始。フーチバー(ヨモギ)やサクナ(長命草)など、県産素材を取り入れたチーズを生産している。



本物の沖縄チーズ作りたい

 「沖縄は、実はチーズ作りに向いている気候なんですよ」

 意外な言葉に驚く記者に、ジョンさんは「ヨーロッパのチーズ名産地はどこですか? イタリア、フランス、イギリスなどですよね。いずれも、湿度が高い地域です」と説明を続ける。

 ジョンさんいわく、チーズのもととなるのは黴(かび)。温暖で多湿な沖縄は、チーズ作りに絶好の場所だという。「沖縄は絶対にチーズアイランドになれますよ」とジョンさんは意気込む。

 ジョンさんはイギリス生まれ。28歳の時、小学校の教員の契約が切れたタイミングで日本へ。「特に理由はなく、どこか行ったことがない場所へ行きたかった」。最初は旅のつもりが、気が付いたら40年以上も暮らしていた、と笑う。

 東京で15年ほど暮らした後、40代半ばで札幌へ。そこで開いた英会話学校で、貞子さんと知り合った。

 「家のすぐ近くに学校ができて、私は生徒として通っていたんです」。貞子さんは、2人の出会いをそう思い出す。

 「外国人なのに、話がとても合った。音楽の趣味が同じだったり、二人とも食べることやお酒が大好きだったり……。価値観が合ったんですね。それまで、あまりそういう人がいなかったんです」

 一方のジョンさんも、貞子さんに一目ぼれ。お互いをよく知るうちに、「この人とこれからの人生を一緒に過ごしたい」という思いが募り、二人は2004年に結婚。数年後、教職員組合の職員として勤めていた貞子さんの退職を機に、温暖な気候を求めて沖縄に移住した。

独学でスタート

 意外にも、ジョンさんがチーズ作りを始めたのは、沖縄に住むようになってから。東京や札幌にいた頃は、英会話学校の経営や科学雑誌の編集で生計を立てており、チーズを作った経験はなかったという。

 「例えば、日本人が外国に行くと、みそ汁を飲みたいと思いますよね。でも、インスタントのみそ汁は売っていてもお母さんが手作りした味のみそ汁はない。私にとってのチーズは、みそ汁と同じ。ないと物足りない。それなら、自分で作ってみようかとなった」とジョンさんはチーズ作りの動機を話す。

 本やインターネットで作り方を調べ、独学で挑戦。2、3度トライするうちに、思いのほかいい味のチーズができた。友人にも好評で、自信を付けたジョンさんはチーズ作りを仕事にしようと決意した。

 最初は那覇市内の元デイケア施設の一室を工場に改装してスタート。牛乳もスーパーで購入していたが、南城市の酪農家・親泊清さんと出会い、意気投合。親泊さんの牧場のそばに工場を建て、牧場のミルクでチーズを作り始めた。

チーズは二人の創造物

 ジョンさんは「チーズは、風土を反映するもの」と力説する。だからこそ「本物の沖縄のチーズ」を作り出すことがジョンさんの目標となり、県産のフーチバーやサクナ、バジルを使った独自のチーズを生み出した。黒こうじ菌を使ったチーズ作りにも成功している。

 15年には、南城市大里のJAアトールにチーズ店「ザ・チーズガイ」をオープン。貞子さんも店頭に立ち、ジョンさんをサポートする。来年には新しい工場の建設も予定しており、ますますチーズ作りに熱意を燃やす。

 「チーズは二人のクリエイション(創造物)。ジョンがいなくても、貞子がいなくてもできない」。長い時間をかけて円熟の味わいを生み出すチーズのように、二人はこれからも同じ時間を積み重ねていくだろう。

(日平勝也)



円満の秘訣は?

ジョンさん・貞子さん:散歩をして気分を変えること。おいしいものを食べること。


プロフィール

ジョン・デイビス: 1948年、イギリス ケンブリッジ近郊の村、キングスリプトン出身。76年に初来日。東京で約15年暮らした後、札幌へ。そこで開いた英会話学校で、妻の貞子さんと出会い2004年に結婚。06年、沖縄に移住し、12年から独学でチーズ作りを開始。フーチバーやサクナ、黒こうじ菌などを用いた県産手作りチーズを生み出す。15年12月、南城市大里のJAアトール内にチーズショップ「ザ・チーズガイ」をオープン

サダコ・デイビス: 1955年、北海道札幌市出身。ジョンさんが札幌で設立した英会話学校に生徒として通ううち、ジョンさんの人柄に引かれ、2004年に結婚。06年にジョンさんと共に沖縄に移住。チーズショップ「ザ・チーズガイ」で接客を担当するなど、ジョンさんのチーズ作りを支えている

ザ・チーズガイ
南城市大里字仲間1155 JAアトール内
☎090-2051-5188(ジョン)
☎080-3236-6661(貞子)

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ジョン・デイビスさん 貞子・デイビスさん
サンタクロースの衣装に身を包むジョンさんと、妻の貞子さん。二人が手に持つのは、ジョンさんが手作りした県産チーズ。ジョンさんのひげは付けひげではなく本物!
写真・村山 望
ジョン・デイビスさん 貞子・デイビスさん
①南城市大里の親泊牧場の牛から搾乳されたミルクで作られた「大里ホワイト」、②大里ホワイトにバジルを加えた「大里バジル」、③栄養豊かなサクナ(長命草)が入った「サクナ」。そのほか、約40種類のチーズを手作り
ジョン・デイビスさん 貞子・デイビスさん
チーズの特徴を説明するカードもジョンさんが自作。ジョンさん、貞子さん、そして愛犬のJ・J(ジョン・ジュニア)のイラストもジョンさんの手描き
ジョン・デイビスさん 貞子・デイビスさん
ジョンさんと貞子さんのチーズを販売するチーズ店「ザ・チーズガイ」=南城市大里 JAアトール内
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