「表紙」2017年12月14日[No.1703]号
二人で営むユニーク古書店
那覇市の若狭大通り沿いにある「ちはや書房」。沖縄関連本、文学、暮らし系の雑誌、絵本、雑貨や漫画家・水木しげる関連の豊富な書籍など、多彩でユニークな商品が店内に並ぶ。本好きにとっては何時間いても飽きない、ワクワクする空間だ。店主の櫻井伸浩さん(44)は、会社員時代に体を壊したことをきっかけに、妻の寿枝さん(49)、娘の志乃さん(14)とともに沖縄に移住。念願の古書店をオープンした。寿枝さんのサポートを受けながら好きな本に囲まれ、充実した日々を送っている。
「古本屋の入門店」目指す
故郷の東北を離れ、この地で「ちはや書房」を開いた櫻井さん夫婦。結婚して18年、出会いのきっかけは伸浩さんが勤務していた携帯電話会社主催のハワイ招待旅行だった。随行員の伸浩さんと成績優秀の販売代理店代表として旅行に参加した寿枝さんは意気投合。お互いの印象は「かわいくて、話も面白かった」(伸浩さん)、「温厚な人が好きだったので、友達にしても悪くないなと思った」(寿枝さん)。結婚を前提に交際を始め、半年後に結婚。娘の志乃さんにも恵まれた。
転機が訪れたのは、2005年。伸浩さんが体を壊し入院したときだ。その時伸浩さんは初めて「死」について意識。古本屋めぐりが趣味の会社員だった伸浩さんの心に「死ぬ前にやりたいことをしたい」という気持ちが膨らんだ。
そんなとき、沖縄のある古本屋が店内の在庫と器具一式をネットオークションに出品しているのを寿枝さんが見つけた。その店は以前、伸浩さんが大ファンの水木しげるの本を買った縁のある店。伸浩さんは「独立して商売をやりたかったし、いつか毎年旅行で訪れていた沖縄に住みたいという気持ちもあったので、二つの夢がかなえられると思った」と話す。
会社員から古本屋に
安定した生活を捨てて、古書店を経営したいという伸浩さんに対して寿枝さんの反応は「やりたいことをやった方がいい」。伸浩さんの仕事の悩みも知り、やりがいを見いだしていないと感じとっていた寿枝さんは、夫の夢を応援した。
家族で沖縄に移住し、06年に那覇市若狭で「ちはや書房」をオープン。店名は花屋を営んでいた伸浩さんの祖母の名前から取った。
二人が目指しているのは「古本屋の入門店」。水木しげるコレクター歴35年の伸浩さんは、自宅本棚にも500冊の蔵書が並ぶという水木しげるマニア。店内の本棚には伸浩さん自慢の水木しげる関連の書籍や小説、沖縄関連本のほかに、寿枝さんのアイデアで雑貨や絵本、暮らし系の本などを取り入れるようにもなった。寿枝さんが気軽に読めて一息できるような本を取り入れたのは「ファミリーで入れるような店にしたい。お父さんが本好きだったら、お母さんと子どもが入っても時間つぶしがきっかけで、何かに出合えるかもしれないから」との思いからだ。
他店との交流が刺激
県内各地のイベントなどにも定期的に出店している。イベントは主に寿枝さんが担当だ。
「彼女は人付き合いが良く、さまざまな人と仲良くなれる。今まで絡むことがなかった異業種の人たちとの交流を通して仲間ができたことがうれしい」と伸浩さん。寿枝さんも「来場者との出会いだけではなく、個人商店を営む人たちとの交流を通して、店を続けていくパワーをもらっている。店づくりについて学ぶことも多く、刺激をもらっている」と続ける。寿枝さんは現在、パートに出て家計を支える傍ら、伸浩さんとともに店を運営。伸浩さんが出張買い取りに行く際の店番はもちろん、ネット販売の一部も担当するなど、なくてはならない存在だ。
伸浩さんは、「好きな本に囲まれて生活できることは楽しい。自分がやりたかったことができたのと、家族と過ごせる時間が増えたことは良かった」とほほ笑む。
今後の抱負を聞くと「続けることが第一」と同じ答えが返ってきた。目指す先は一緒だ。これからも公私ともに支え合いながら、家族の好きな本であふれる古書店を育てていく。
(坂本永通子)
円満の秘訣は?
伸浩さん: 思ったことは何でも言うことと、うそをつかないこと。一生一緒にいる人だからうそついたら、自分の人生にうそつくようなもの。あとは尊敬かな寿枝さん: 言うことを聞くこと(笑)。心掛けていることはないですが、一緒にいて飽きないですね。くすっと笑えるところが面白い。子どもを見るのと同じ感覚なのかもしれない
プロフィール
さくらい・のぶひろ: 1973年宮城県生まれ。仙台市内の大学を卒業後、NTTドコモ東北に入社。青森、仙台、福島で勤務。2005年に退社後、沖縄に移住。06年3月「セレクト古書 ちはや書房」を開店さくらい・ひさえ: 1968年秋田県生まれ。関東の大学を卒業。放送局・IT関連会社勤務を経て、秋田に戻り通信機器販売代理店に就職し、ドコモショップ湯沢店に勤務。1999年に伸浩さんと結婚。1女の母
ちはや書房
那覇市若狭3-2-29 1F
☎098-868-0839
〔HP〕ちはや書房
12月16日(土)・17日(日)に那覇市のさいおんスクエアにて、県内外の60店以上が集結する「オキナワマルクト2017 南の島の蚤の市Vol.3」に出店予定
写真・村山 望