「表紙」2019年07月04日[No.1783]号
アカギの木がシーサーに変身
沖縄には、数多くの個性的なシーサーがあるが、今回の表紙を見れば、誰もが驚くに違いない。アカギの木のくぼみを口に見立て、目玉や歯、舌をくっ付けたユニークかつ芸術的な作品だ。出現したのは、豊見城市北分譲自治会の集会所前。作者の津波源盛さん(75)を訪ね、話を聞いた。
豊見城市北分譲自治会の集会所前に、ことし6月のはじめ、ユニークなシーサーが出現した。
普通、シーサーの体は漆喰や陶器で作られる。しかし、このシーサーの体となっているのは、一本のアカギの木だ。
木のくぼみを口に見立て、目玉をくっ付けてシーサーを表現する―。この奇抜なアイデアは、一体どうやって生まれたのだろうか。
「もともと、このアカギの木は、2001年に現在の自治会集会所ができた時に、記念として植えられたものだったんです」と自治会長の宇根丈雄さん(80)は話す。
最初は小さい木で、周囲を添木で囲っていたが、年月が経ち、アカギの木が成長するにつれ、添木が食い込んでしまったそうだ。
数年前、このシーサーの作者である津波源盛さんが添木を取り払う作業を行った。シーサー誕生のヒントとなったのは、その後、集会所で開かれている三線教室の講師がつぶやいたある一言だった。
「この木は横から見るとシーサーに似ているね」。添木が食い込んだくぼみの部分が、ちょうどシーサーの口のように見え、なるほどと思った津波さんは、木に歯と目を付ける案を思いついたという。
身近な材料で工夫
目玉の材料はゴルフボール。半分に切ったゴルフボールに黒目を入れ、ネジで固定し取り付けた。
歯には、方言でゲキチャーとも呼ばれるゲッキツの木を利用した。「歯をどうやって作るか、寝ながら考えた。ホームセンターに置いてある材料も考えたが、ゲッキツを使おうとひらめき、翌日にすぐ取り付けた」と津波さん。ゲッキツをナイフで削り、電動ドリルで開けた穴に木工ボンドで接着した。
「ゲッキツは硬く丈夫なのが特徴。以前からゲッキツの木で三線立てを作っていた」。ゲッキツの木の白い風合いにより、シーサーの歯にリアルな迫力が生まれた。
しばらくして舌も追加。花鉢をカッターで切り、赤い陶器の色で舌を表現した。身近な材料を工夫してシーサーを表現した手腕に驚かされる。
津波さんのプロフィルを尋ねてみると、意外にも工芸関係者ではないとの返事。1972年からこの地域で暮らし、長年電力会社に勤務していたが、庭仕事や工作にも心得があり、台風で落下した集会所屋根のシーサーを再び取り付けたこともあるという。若い頃は絵に熱中していたとのことで、このシーサーには芸術的な素養も生かされているのだろう。
親子で写真撮る姿も
シーサーの反響について聞くと、「通りがかった親子が、写真を撮っていく姿を目にしますよ」と北分譲自治会員の金城準一さん(77)が答えてくれた。
もう一カ所のくぼみを利用して、津波さんは一つ目のお化けも作った。道路からは見えにくい場所にあるが、グラウンドゴルフなどで集会所の庭を使う時に利用者が気付くのではないか、といたずらっぽく笑う。
北分譲自治会には、現在約130世帯が所属。敬老会や祭り、新年会などのイベントを定期的に開催しているほか、集会所で三線、紅型、囲碁、太極拳、グラウンドゴルフなどのサークル活動を盛んに行っている。会員たちは40年以上の付き合いである場合も多いとのことで、和気あいあいと活動している様子が目に浮かぶ。
アカギの木のシーサーはインスタ映えもバッチリだが、周辺は静かな住宅地なので、見学の際には、くれぐれも迷惑をかけないよう、マナーを守ることを心がけてほしい。
(日平勝也)