「表紙」2019年07月11日[No.1784]号
絵にトランペットに文章も少し
優しい色使いの人々や動物たちに風景。作家・まきやしほさんが表現するのは、彼女の日常生活のこと。どんな人の暮らしにも訪れそうな一場面を、独特で、ちょっと面白い視点で切り取っているのが彼女の作品の魅力だ。ゆるいけれど多彩で、精力的に活動するまきやさんの人物像を紹介したい。
「こんにちは。今日は用事で街をぐるぐるまわりました…」
「こんにちは。私は睡眠不足がとっても苦手です…」
「こんにちは。今日は隣の家のネコの名が『みーちゃん』だということを知りました…」
素朴な書き出しで始まる文章はどれも、まきやしほさんが作品の絵に書き添えているものの一部だ。浦添市港川のレストラン「rat&sheep」で開催していた個展『私からあなたへ』(会期:6月8日〜29日)では、今年の年始から毎日彼女が書きつづったハガキが展示されていた。会場を訪れた人は、展示されているハガキ一枚一枚を手に取り、絵と文章を楽しむことができる。
「絵だけだとどうしても、見る人を緊張させてしまうような気がして。こんな感じ方でいいのかな、って心配になる人もいるでしょうし。でも文章が添えられていると、だいたいこんな感じで見ていいよって伝えてあげられる気がします」と彼女は作品について説明する。
まきやさんの作品のモチーフになるのは、何気ない、しかしユニークな日常の風景だ。テレビを見て感じたこと、通りすがりの人と話したことなどを優しい色合いの絵と、手書きの文章で表現している。鑑賞していると「素朴だけどちょっと変わった人なんだな」とまきやさんに親近感を持ってしまうから不思議だ。
絵でコミュニケーション
神奈川県出身のまきやさんが沖縄にやってきたのは、県立芸術大学への進学がきっかけだった。クラシックのトランペット奏者を目指し、日々厳しい練習に明け暮れていた。現在も、トランペットの活動は続けているが、大学3年の時に一度挫折、大学も休学することになる。このとき心の支えになったのが、絵を描くという行為だった。
まきやさんは「心が疲れてしまったときに、小さい頃に好きだった絵を描くことで気持ちを整理し、なぐさめられていました」と振り返る。このときから描き始めた絵をSNSに投稿したところ、それを見た知人から「気持ちが楽になった」という反応が得られた。加えて、絵を通してあれこれ語るのが楽しいと思ったそうだ。この経験が作家として絵を発表していくことにつながっている。
「私の絵ってつっこみどころも多いので(笑)、絵を通してのコミュニケーションが生まれるんです」と語るまきやさん。自身が絵によって癒やされた経験を踏まえ、見る人に優しく話しかけるような表現を心がけているそうだ。
手描きTシャツ展
日常生活の中に面白いものを見い出し表現する、というスタイルのまきやさん。今年は精力的に作品を発表すると決め、毎月どこかで個展を開催している。今月は、那覇市曙の軽食店「fish & chips まるたま」でTシャツに施した絵を展示する「手描きTシャツ展」を開催予定だ。Tシャツにアクリル絵の具を使い描いた作品は、気に入ればその場で購入することも可能だそう。
「Tシャツに描いた絵は、私の知らないところで、知らない人と思いがけない出合いをしてくれます。私の絵を見た人の心の中に小さくでも感動や変化を与えることができれば、と考えています」
何気ない、けれど愛らしいまきやしほさんの作品たちにぜひ合いに行ってほしい。
(津波典泰)
『まきやしほ 手描きTシャツ展』
会 場 fish & chips まるたま(那覇市曙2-15-12-102)
期 間 7月20日(土)〜28日(日)
定休日 22日(月)
営業時間 9:30〜20:00
※金・土は21:00まで、日曜日は19:00まで
入場料 無料
※お店のメニューオーダーをお願いします。
★同日程で開催のLEDGE&cdya企画の『Tシャツ万博2019』にも出店予定。