「表紙」2019年10月31日[No.1800]号
黒潮文化圏でつながる島々
台湾と沖縄の交流を深めようと那覇市・八重瀬町・北中城村を会場に今年9月、9日間にわたって開催された「2019 島嶼音楽季」。このイベントの発信地は台湾東部の台東・花蓮地区で、沖縄との交流を求めてスタートした。今回は現地から台湾原住民ミュージシャンら20数人が来沖。開催や交流のキーマン4人に思いを聞いた。
「一度見てもらわないと分からない世界です!」と音楽会への来場を呼びかける参加ミュージシャンの一人、下地イサムさん。言わずと知れた人気シンガー・ソングライターの下地さんは、レパートリー曲のほとんどを出身地である宮古島の言葉で歌う人物だ。
「僕は自分の言葉で歌う事だけをやっていますし、日本の中でアイデンティティーを一番大切にしているのはウチナーンチュだという自負もあります。でも彼らに会うと、まだ足りないと思ってしまうんですよね」
下地さんは共演する台湾原住民ミュージシャンから、ネーティブ意識を強く感じるという。歌に込めた思いや言葉だけではなく、伝統服を着て舞台に上がる姿、また楽屋で部族の違いなどを談笑している明るい雰囲気から、そう思えて仕方ないそうだ。
「彼らに会うのは伝統を捉え直すいい機会。台湾は大好きですし、このイベントに今後も参加して、沖縄でも広げられるように頑張ります」
休日は狩りをする音楽家
映画『セデック・バレ』の主題歌を手掛け、出演も果たすなど幅広く活動しているセデック族のLaka Umaw(ラカ・ウマゥ)さんは、初めて沖縄に来たそうだ。浦添のライブハウスを拠点にしているロックバンド・Shaolong To The Sky と日本語曲を披露するなど、楽しいコラボシーンで会場を盛り上げた。
「沖縄のステージに立ててうれしい。故郷の音楽や生活様式を伝えたい気持ちで歌い、伝統的な口琴も演奏しました」と満足そうなラカさん。現在は仕事の関係で花蓮市の中心部に住んでいるが、生まれ育った萬栄郷にも時々帰るという。母親孝行をし、友人と山に登ってイノシシやヤギを狩る休日を過ごしているそうだ。
兄弟関係築き深める理解
美しい風景が目に浮かぶような台湾原住民の独創的な音楽を聞き、県内ミュージシャンとの共演も楽しめるこの音楽会は、なんと入場無料で行われた。主催は行政機関である「国立台東生活美学館」だが、どのような意図で開催しているのだろうか。
「地理や黒潮文化、そして中国・アメリカ・日本の影響を受けている背景。台湾と沖縄はよく似ていますよね」と話すのは、館長の李吉崇さん。文化交流を促進するこの機関は台東・花蓮地区に事務所があり、台湾の中で優れた音楽家を輩出しているエリア。
「音楽を切り口に交流を進めて、文化・環境・産業について相互理解を深める目的も持ちながら続けます。島嶼音楽季というイベントが土台になり、双方での交流範囲が広がって深くなることを期待しています」と話を続けた李館長は、交互に交わされる温かなおもてなしの心に毎年感動しているという。
「沖縄と台湾は歴史的なつながりもあり、兄弟のような関係ですよ。一期一会を大切に、来年は台東・花蓮でお待ちしています!」とメッセージをくれた。
土地の記憶を次世代へ
沖縄と台湾の懸け橋的な存在として活躍し、本イベントでキュレーターというパイプ役を務めるのは、那覇市出身の伊禮武志さん。
「台湾東部の人々は、豊かな自然と調和しながら生活しています」と説明し、口承される民族の歌や身近な素材で作る工芸品など、土地に根差した芸術作品が住民たちの意思表示になっていると語る。
「黒潮文化圏の沖縄と台湾が音楽と芸術をきっかけに交流し、しっかりと結び付いてほしい。生活や風習を理解し合って忘れていた土地の記憶を呼び起こし、次世代に継承しする事を願っています」と熱い思いで取り組み、「隔年で実施している長期計画ですが、県内各地の皆さまの協力があって継続できるイベント。今は台湾の行政機関に頼った開催ですので、県内の行政関係者はじめ多くの人へと理解を広げ、パートナーシップを結んでいきたいです」と述べる。
文化交流をしながら暮らしを知り学ぶ「島嶼音楽季」。今回の音楽会は、沖縄民謡「汗水節」と台湾アミ族の伝統曲「老人飲酒歌」を取り入れたアレンジ曲で幕を閉じ、場内は感動に包まれた。来年の台湾、そして2年後の沖縄での開催が早くも待ち遠しい。
(饒波貴子)
〈 information 〉
【文化交流イベント】
島嶼音樂季 H.(花蓮)O.(沖縄)T.(台東)Islands Music Festival
<開催予定>
●2020年夏:台湾 台東地区・花蓮地区
●2021年秋:沖縄県内各地
https://www.hot-islands-music-festival.com/?lang=ja