「表紙」2020年01月09日[No.1809]号
まるで本物!沖縄ならではの食品サンプル
日本独自の文化として外国人観光客からも人気の食品サンプル。樹脂などで精巧に作られた模型で、色や形、質感に至るまで、本物そっくりに作られている。那覇市真嘉比にある「食品サンプル 山月(さんげつ)」は沖縄ならではの食品サンプルを数多く制作。代表の屋良聰さんたちの手で作られる商品はまさに職人技。沖縄の食文化をリアルに再現している。
ゴツゴツとした深緑色のゴーヤー、だしの効いたスープがおいしそうな沖縄そば、軟らかそうな三枚肉――。「食品サンプル 山月」の工房には、実物そっくりの食品サンプルが並ぶ。
社長の屋良聰さんはこの道約40年。大阪の商社勤務を経て、沖縄で飲食店向けの業務用品を扱う商売を始めた時に来た依頼がきっかけだった。「大阪に行って食品サンプルを買ってきてほしいと頼まれ、軽い気持ちで引き受けた」。しかし、大阪の道具街で販売されていた値段では、コストに見合わない。何とか製造メーカーを探し、幸いにも入荷ルートができた。
そのうちに「自分でも作れるのでは」と思い始めた屋良さんは、入荷元の製造メーカーに指導を仰ぎ、技術を習得。自らサンプルを作り始めた。
最初は見よう見まねで手探りの状態だったが、当時は喫茶店関係がほとんどで、ドリンクやスパゲティなど簡単な商品が多かったという。「徐々に食文化が多様化して、要求度も高くなり、それに適応していくようになっていった」
味付けを色で表現
山月の工房に入ると、オーブンや包丁などが並び、まるで厨房のようだ。食品サンプルは樹脂で作られる。まず、飲食店から提供された実物の料理で型を取る。その型に液体の樹脂を流し込み、オーブンに入れ、熱で硬化させる。固まった樹脂を型から取り外し、エアブラシで色付けなどをして仕上げる。色のグラデーションやつやをつけて、リアルさを追求していく。
色は大切な要素だ。「味付けは、色で見せるしか方法がない。だから『おいしそう』というのは色で表現する」
現在は小さな工房で、絵描きでもある大城久喜さんと2人で制作に励む。飲食店などに陳列する食品サンプルだけでなく、博物館などに展示する動物や植物、沖縄の食文化の資料に使う重箱など、さまざまな依頼が舞い込むため、オールマイティーなスキルが求められる。
キーホルダーがヒット
山月では30年以上前から、キーホルダーなどのグッズも制作している。きっかけは屋良さんが遊び心で作ったキーホルダー。会社を訪れた友人がそれを見て欲しがったのがヒントになった。産業まつりでゴーヤーのキーホルダーを販売したところ、ユニークなグッズに人だかりができた。今では山月の手がける沖縄ならではのキーホルダーやマグネットは、観光客にも人気の商品だ。
サンプルを見たいという問い合わせも多い。「将来、ショールームを作りたいという構想がある。ここまでできるんだというのをさまざまなサンプルを展示して見せたい。昨年真嘉比に移転する前も工房併設の店にショーケースがあったが、一味違った、見せる空間を作りたい」と語る。
沖縄の食材は全国的にも人気を集めている。「最初の頃は沖縄の料理はいずれなくなるだろうと思っていたが、ますます元気」という屋良さん。沖縄の食文化の魅力が詰まったサンプルを今日も作り続ける。
(坂本永通子)
食品サンプル 山月 (さんげつ)那覇市真嘉比2-14-11
☎098-987-6111
http://www.sangetu-okinawa.com/